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秋季休暇【2】
通されたのは夏季休暇の時みんなで一緒に眠った広いリビング
そこに集まるとうもろこし頭の兄弟たち
その真ん中には真っ白なドレスに包まれ眠るように横たわるネヴィ母がいた―――
真っ白なレースがふんだんに使われた棺の中で
陽にやけた肌が白く透き通るように眠るかのように…
その手を握り祈るようにうずくまるネヴィ父の嗚咽が聞こえる
その後ボクはどうしたのか記憶がない
みんなになんて声をかけたのか
赤ちゃんは…?
なぜ母さんが…?
気がつくとボクは2階の子供部屋でジェイミーとシリルを抱きしめていた
2歳のジェイミーはよくわかっていない
5歳のシリルは変な雰囲気はわかっているが静かにしている
他の兄弟はお葬式の準備と赤ちゃんのお世話でこの部屋には来ない
ボクは涙を流さないように二人の相手をする
(母さん…かぁさん―――!)
ボクが泣いてる場合じゃない わかってはいる……だけど…
太陽のような母さんの笑顔
おひさまの匂いのシーツ
笑顔があふれていたこの家が、悲しみに満ちている
『賢いね 挨拶もちゃんと出来て わんぱくネヴィも見習ってほしいわ~』
そう言って笑ってた母さんが
出産後、胎盤がはがれなくて出血が止まらず………逝ってしまった
ついこの前、学院祭で一緒に写真を撮ってたのに
『秋休暇にまた会いにおいで』って言ってたのに―――
「フェル…フェルは本当は天使さまなんでしょう?
母さんを連れて行かないでって神様にお願いして?」
子供部屋に来たエイダが
フェルに跪き両手を合わせお願いする
「母さんドコイクの?」不安そうにシリルが聞く
「ボクは…ボク…っは…!」耐えきれずフェルの涙があふれた
(ボクは天使なんかじゃないんだ 母さんを…連れ戻すなんて…
出来るならしたい …けどボクは…なんの力もない…
ママが死んだ時も、シグの時も… ボクは無力で
こんな時にかける言葉も見つけられない……自分が情けない)
「ごめん…ごめんよ」エイダを抱きしめるしかできなかった
お葬式は親戚や近所の人が集まりしめやかに行われた
母さんの煙が天に登っていくのが見える
『また幸せが1つ増えるわー どんどん幸せになって困っちゃう』
フフフとちっとも困ってなさそうに笑った母さんが…天に登ってゆく
ネヴィルが気丈に、ネヴィ父の隣で
弔問客を出迎えているのが見えた
家事やご飯は使用人の人がやってくれたので不自由はなかったが
太陽のような母さんがいなくなった家は、秋なせいでなく寒かった
お葬式が終わった翌日
ボクは客間でようやくネヴィルとユックリ話ができた
「だから言ったんだ…子供産み過ぎだって…」歪んだ笑顔でネヴィルが言う
「母さんがいなくなるくらいなら兄弟なんていらなかったのに…」
ネヴィルのやつれた頬に手を添えフェルはなだめるように言った
「母さんはボクにこう言ったよ…
『生まれてから死ぬまでなんて一瞬なのさ』
『だから後悔のないようにしないといけないよ?』
『明日死ぬかもしれないと思って今日言えることは今日のうちに言う』
ごめんね ありがとう 大好き
『明日もあるってみんな思ってるけどそんなことない』
『この一瞬一瞬がかけがえのない宝石のような時間なんだよ』
だから…
『後悔のないように生きるんだよフェル坊や…』
母さんは悔いのないように生きてみんなを愛してたよ
ボクまでも愛してくれて救ってくれたよ? 」
力なく座るネヴィルを抱きしめる
産まれてきてよかったのかな なんて言うボクに
『生まれてきちゃいけない命なんてないんだよ』って言葉をくれた母さん
「ボク母さんに聞いたんだ
なんでそんなにいっぱい赤ちゃん産むの?って
そしたら母さんね―――
『ネヴィルが産まれた時、可愛くて可愛くて
自分の体から天使さまが出てきたと思ったのよ
もー食べてしまいたいくらい可愛くてね~
すぐ次の年にエリオットが産まれて、また可愛くて可愛くて
幸せが2倍じゃなく5倍にもなったくらいに幸せでね
一人また一人と気づいたらこんなに産んじゃってた』
『母さんの体が心配ってネヴィルが言ってたよ』
『そうだね…でもね私はできるだけ産みたいんだ
ちっぽけな私の体から産まれた命が次の世代に受け継がれていって
この世界に私の可愛い天使たちがたくさんの生命を繋いでいく
それが私がこの世界に生きた証になるんじゃないかって………
…偉そうなこと言ってるけど、結局子どもたちが可愛すぎて
産んでるだけなのかもしれない』
眩しいほどの笑顔で母さんはニカッとネヴィルそっくりに笑った
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