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秋季休暇【3】

『ネヴィルは長男だからって  親のエゴで一人家族から離れて騎士学院に入れてしまって       寂しい思いをさせている』と母さんは言った 将来 国の役に立てるお仕事について欲しいという  両親の願いで寂しい思いをさせていると… 『だからフェル坊や あの子の友達でずっといてやっておくれ    ああ見えて甘エンボのダメっ子だからね』 (母さん…約束するよ ボクは永遠にネヴィルの親友でいることを) ネヴィルが握りしめている写真が目に入る 学院祭の時に撮ったジュリアス様と母さんが一緒に写ってる写真だ 「嬉しそうに…笑ってたのにな……」ネヴィルが泣きそうになる 「ボク言えば良かった…   この人がボクの大切な人だよって、 母さんに約束してたのに  『いつか大事な人が出来たら母さんに見せに来てね』     って言われてたのに 言えなかった…」 後悔が波のように押し寄せる  胸が痛くてどうにかなっちゃいそうだ 「フェル…母さんは知ってたよ」 涙に潤んだ目で微笑みながらネヴィルは言った 「見てたらわかるって…ジュリアス様のあの眼差し  あんな優しそうな目誰にもしないからな」 「フェルだってバレバレだぞ?母さんわかってた…電話した時言ってた」 『フェルはすごいね ジュリアス様とだなんてビックリだよ  この先、大変な困難もたくさんあるだろうけど 幸せになってほしいね…  ネヴィ 親友なんだから助けてあげるんだよ』 あぁ………母さん…!! 抱かれた時の柔らかな胸、匂い 今でも思い出せる母さんの声、言葉 もうどこにもいない けど…きっとずっとボクの…みんなの心の中で生き続ける 窓の外を見ると海原のような小麦畑は収穫ですっかり刈り取られていた ノーマが赤ちゃんを抱いて部屋に来た 赤ちゃんの名前はLiebe(リーベ)と名付けられた 遠い国の言葉で【愛】という意味なんだそうだ 母さんと同じ、とうもろこし色の髪の赤ちゃんの顔は きっとそのうちソバカスであふれるだろう 大きくなったらボクの知ってる母さんの話をしようと思う 愛に溢れた 大好きな母さんの話を――― 残り1週間の秋季休暇、お世話になるクリストフェルが 運転手の人と迎えに来てくれた 「また学院でな!」 門の前でネヴィルはいつもの笑顔でニカッと笑った 隣に座るクリストフェルが「大丈夫だよ あいつは強いから」って言った 強いだけじゃないんだよ甘えっ子なんだよ って言いかけたけどやめた しばらく進むと車が停まった 運転手の人が「立ち往生してる車があります」と言って降りていった 様子を伺っていると、運転手さんが倒れるのが見えた 大人の男がこっちに近づいてきて後部座席のドアを開けた 「久しぶりだな…探したぞ」クックックッと笑う男 その顔は…忘れるはずもない 「…にぃ(義兄)さま―――!」   何かを顔にかけられ 僕らはそのまま意識を失った

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