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脱出 【3】
虚ろなコピーをベッドに座らせ、ボクは目を見据え言った。
「コピーどうして死のうだなんてしたの?」
「……」
「にぃさま のいない世界で生きる道もあるんだよ?ちゃんとした人と暮らして、勉強して、幸せになって、本当に愛する人を見つけて?」
「……がう」 力が抜けたようにグラッと揺らぐコピーの頭を抱きしめる。
「ボクがお願いしてあげる。学院にいられるように、ここで一緒に暮らそう?」
「違う…ボクは…コレを使って、ボクはここの屋上から落ちて死ぬんだ…」コピーの手にはスプレーのようなものが握られていた。
(コレは…あの時使われた催眠スプレー?)
「お願い…屋上に連れて行って。ボクもう耐えられない、ご主人さまが殺される前に……おねがい」
グッタリとフェルの胸にもたれかかりながら弱々しくコピーは縋った。
しばらくの沈黙の後、ボクはさっきした決心をコピーに話した。
「にぃさま を助けよう そして二人で逃げて」
そう言うと虚ろだったコピーの目に力が戻ってきた。
「逃げる…逃げれるの…かな?」
「逃げれるかじゃない逃げるんだよ。じゃないとにぃさま は死刑だ、そうなったらコピーも生きてられないだろう?」
コクリと頷くコピー。
「すぐ行くよ 立って」
「やれやれ やっと帰ってきたと思ったら」
ギクリとドアの方を見ると、フロランが呆れたような顔で立っていた。
「どこ行く気か知らないけど、ちゃんと帰ってこいよ」そういいながらフェルのベッドにドサリと座り足を組む。
「うまく誤魔化しといてやるから、そのかわり冬期休暇もうちに来て、姉さま達のオモチャ役よろしくな」
いつもの意地悪な顔で笑うものだからボクは泣きそうになる。
「ありがとう…フロラン」
「そいつ汚すぎじゃない?コレ着てボクのふりして行くといい」着ていた自分のお気に入りのピンクパーカーを脱ぎ投げてよこした。
コピーの汚れたシャツを脱がせパーカーを着せようとしたら、包帯に包まれた痛々しげな肩とともに首からぶらさがったボクの夜光石のネックレスが現れた。
「コレ…返す」 ネックレスをはずしボクに差し出してきた。
「ボクはオリジナルにはなれなかったけどコレは必要じゃなかったんだ。だって ご主人さまはオリジナルじゃなくコピーを選んでくれたから」
とても嬉しそうに腕にはめたガラスのブレスレットを見せるコピー。
「それは…?」
「街で見つけたの、死ぬ前に見つけて買ったの。ご主人さまの目と似てるでしょ?コレと一緒に死んだら生まれ変わってもご主人さまの近くに産まれられる気がしたから」
うふっ、と愛おしそうに撫でながら笑った。
「呑気にくっちゃべってる場合か?さっさといけ」フロランがめんどくさそうに片目を細めて言った。
「うん」 コピーの手を取りボクらは寮から抜け出した。
消灯時間をとっくに過ぎている寮は静まり返っている。
4階から3階に降り、階段前の検問所で「お願い。どーしても飲みたいジュースがあって1階にちょっとだけ買いに行かせて」と顔見知りの使用人にお願いして通過した。
フロランのふりをしてパーカーをかぶった、フロランより背の低いコピーには気づかず通してくれた。
寮から出て人気のないバラ庭園を進み、校舎棟裏の厩舎まで来た。
馬を使ってあの屋敷まで行こうと、比較的おとなしいサーシャという白馬に鞍をのせようとしていたら―――
「何してるんだ」暗闇の向こうから声がした。
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