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脱出 【7】
「ご主人さまっ!」地下室に入るなりカーティスに抱きつくコピー。
「おまえ…どうして」 驚きで固まるカーティスに抱きつく左腕は離れない。その右肩を怖怖 触ろうとするが手を引っ込める。
「肩…だいじょうぶなのか?」
ウンウンと頷くだけで泣きすぎて声にはならないコピー。カーティスがフェルの姿を見て、理解した。
「コピーと逃げて」 手錠のカギをはずしながら言う。
鎖もはずし、自由になった手を擦りながらカーティスが立ち上がる。「お前、ほんとに変なやつだな」
「失礼な」 プゥとふくれるフェル
「いいのか…オレのこと逃して、恨んでないのか?」
フェルはウーンと考えるような仕草で天井を見上げる。
「昔のことは忘れた。それに にぃさま が死ぬとコピーがさ、死んじゃうんだよ。それは困るんだよねせっかく友だちになったのにさ」
コピーが驚き振り向く。「と…もだち…?」
「そうだよ ネヴィルもフロランもクリストフェルも、他にもいっぱいいるからね。だからいつか落ち着いたら…連絡してきてね」
力の入らないコピーの左手を握りしめる。
カーティスに手伝ってもらって眠っている警官を屋敷の外に運び出す。
「お前、何するつもりだ」
「時間稼ぎ」 悪そうに片頬をあげてニヤリと笑うフェルだが可愛いだけだ。
ジークフリードの前まで来る。
「お前…ジークフリードじゃないか?コレに乗ってきたのか?」
「うん、早く乗って。街道を避けて森から山の方に逃げて」そういうフェルに心底嫌そうな顔をしてカーティスが首を振る。
「無理だ…こんなやつ乗れるわけない」
「だいじょうぶ。ボクがジークにお願いするから」フェルがジークフリードの鼻面に顔を寄せお願いすると、ブルルルと鳴き頭を2.3度上下すると、静かにカーティスとコピーをその背に乗せてくれた。
「信じられない…こいつに乗れる日が来るなんて」
騎士学院でカーティスもジークには髪をむしられてたのだろうと思うとフェルの笑いは止まらない。
「こんなことして、お前だいじょうぶなのか…?」
「後のことは気にしないで、にぃさま」
フェルは少し下を向き一息つくと、馬上のカーティスを見つめ言った。
「あの時…ボクをかばってくれてありがとう。にぃさまのおかげで、あの時死なずにすみました。
そのおかげでボクはいっぱいいっぱい幸せを手に入れられた。にぃさまのおかげです、あと義母様のことごめんなさい」
申し訳無さに俯くフェルに馬上のカーティスが言う。
「オレは…母の気持ちが理解できなかった。愛に飲まれて死んだバカな母、死ぬほどに人を愛するってことがわからなかった。だけど今は…そんな母が理解できる、死ぬほど愛せる人が見つかった今だから」
コピーを抱きしめ頬に口づけるカーティス。
痛みで汗がにじみ、涙でグシャグシャになった顔をカーティスの胸元にこすりつけるコピーが「ボクも…ボクッ…っも」と言う。ドロドロにされたシャツを見てカーティスが眉をしかめ、怒ったような顔をしながら困ったヤツだなぁとつぶやいた。
「にぃさま…コピーを幸せにしてあげてね」
「当たり前だ、こいつはオレがいないと死んでしまうみたいだしコイツが死ぬ日まで側にいてやるよ」
コピーの頭を撫でながら、照れながらそっぽ向いて言った。腕に中のコピーは幸せそうだ。
フェルはコピーに最後の質問をした。
「最後に…最後に君の本当の名前を教えて?」
眉を寄せ少し考えるような顔をした後、コピーはカーティスを見上げる。カーティスも気になるのかコピーにうなずき答えを待っていた。
カーティスを見るコピーの目が細められ、夏空のような爽やかな笑みを浮かべながら嬉しそうに答えた。
「コピーだ」
「ボクの名前はコピーだ。ご主人さまがつけてくれた、この名前しか知らない」笑うコピーの頭をカーティスが抱き寄せた。
( そっか…そうだね。コピー じゃないコピー のコピーなんだね )
体を捩りフェルを最後まで見ようとするコピーをしっかりと抱きしめたカーティスの背中が小さくなっていくのを確認してから屋敷の中へと踵を返す。
何か使えそうなものはないかと家探 しして60cmほどの長さのバールを手に入れたフェルは地下室へと戻る。
地下で囚われていた時に、部屋の中は嫌というほど見ていた。2つの配管が壁際に這っていて、このどちらかが、ガスの配管だと見当をつけていた。
フェルはこの屋敷を火事にして、捜索の目をそらそうと考えていた。
バールを配管と壁の間に差し込み、テコの原理で全体重をかける。フェルの体重ではなかなか壊すことが出来ず手こずっていた。何度か試みると一気に配管がはずれ、盛大にフェルは後ろに転んだ。
ブッシャァ―――ッ
「水…」 全身びしょ濡れになってしまった。
立ち上がりもう1つの配管も同じように壊すと、今度こそガスが噴出した。
「火…」
1階に戻り種火になりそうなものを探す。見つからず2階に上がってキッチンをゴソゴソと探していると小さなライターがあった。
「よかった…これで―――
ドゴォオオオオオオオン!!!!
その瞬間、閃光と共に屋敷が爆発した。
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