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罪 【1】

くすぶる家の焼け跡。周囲を嫌な匂いがたちこめ人々の話が耳に入る。 一人暮らしのお年寄りが焼死したのだと村人が話す声が聞こえる。 ボクは怖くて怖くて、握っていたシグの手にギュッと力を込める シグが死んじゃったらボクは一人ぼっちだ。やっと手に入れたこの温かな安心できる手をなくしたくない。気づけば頬を涙が伝っていた。 それに気づいたシグが屈んでボクの頬にキスをしてくれる。 「シグ…死なないで?」ボクの不安を拭うように、ヒゲだらけで表情が見えにくいシグだが目を細め優しい声で約束してくれる。 「ワシはフェルが大人になるまで死ねないさ。こんな可愛い子を一人残して、どうして死ぬなんてできる?」 ああ…シグだ…懐かしい。 ボクはこれが夢だって気づいてしまった。気づきたくなかった、あの時に戻ってシグと永遠に一緒にいたかったのに。 ここはどこなんだろう。 苦しい…目がよく見えない。喉の奥に細い絹糸がいっぱい詰まってるみたいに息が出来ない。 ボンヤリと光が見える。手を伸ばすと誰かの手がボクの手を力強く握った。 「無茶しやがって…」怒ってるような呆れたような笑ってるような複雑な声がした。 そのお陽さまみたいな匂いに安心して、ボクはその腕に抱かれて暗闇に落ちていった。 ******ジュリアス視点******* 一睡もできずに、朝フェルの部屋に行くとフロランもフェルもいなかった。 階段の検問所の使用人に聞くと、夜ジュースを買いに行ったらしいがその後はわからないと言う。 そこにテオフィルが駆け込んできた。 カーティスを閉じ込めていたはずの屋敷が爆発炎上崩落したと。 現場につくと、既に鎮火した屋敷だったであろう残骸と「天使を見た」としか言わない、見張りの地方警察官に オレは察した 体が震える フェルはどこだ…? 昨日のフェルの願いを思い出す。もしかしてアイツと一緒に逃げたのか。 そんなはずはないと頭を振る。 そうだ コピー、あの少年はどこだ? 屋敷の焼け跡の捜索と街道の封鎖を指示し、コピーの昨夜からの居場所を調べさせるとネヴィルが連れ帰ったと報告が入った。 ********************** 暗い…何も見えない。 喉に詰まっている絹糸を誰か取ってほしい。黒い何かが心臓の鼓動に合わせて大きくなったり小さくなったりするのが怖い。 (たすけて―――)声に出してるはずなのにヒューヒューと風の音がするだけだ。 寒いんだよ…シグ暖めて。 お風呂もなかった山小屋での生活、お湯で濡らしたタオルで体を拭った後、震えるボクの体をいつもの毛布でグルグル巻きにして、大きな手で抱きしめてくれる。 (ああ…あったかいよ) シグの匂いがする パウルもいる?良かった…また帰ってこれたんだ。もうどこにも行かないで。 息苦しさに目を開けると、心配そうなソバカスの親友の顔と見知った部屋。 (あれ…?ここって) ヒラヒラレースのカーテンとピンクのベッドのフロランの家に泊まった時のお部屋だ。 「熱があるんだよ、しんどいか?」 ボクの額に冷たいタオルを当ててくれる大好きなネヴィル。後ろにはクリストフェルとフロランもいる。 みんな悲しそうにボクを見ないで?ボクはだいじょうぶだから、すぐ元気になるから。 あの二人は無事に逃げられたんだろうか… 「あの二人はまだ見つかってないって、フェルあれから3日も寝てたんだぞ?」ボクの心を見透かしたようにネヴィルが教えてくれた。 「屋敷が火事になってるって知らせを受けて俺らも行ったんだよ。フェルどこにもいないし、アイツと一緒に行くわけないしさ、あそこから歩いて学院まで森の中ずっと歩いて探したんだ」 ネヴィルは不思議な話をした。 あてもなく森の中を歩いていたら、手招きするような烟るような光が見えたんだって。 その光を辿って暗い森をどんどん進んでいくと明るい開けた場所に出て、そこには小川が流れていて秋なのにちょうちょが舞っていたんだって。 「なんでかわかんないけどオレ思ったんだ、あの光の先にフェルがいるって」 『いつもマルブランシュの木にフェルが抱きつき話しかける時に見える光と同じだったから』ってネヴィルが言うけど、そんな光があるのかな?変なネヴィル。 ふふふ 「ボクを見つけてくれてありがとうねネヴィル」そういうボクの頭をネヴィルの懐かしい手がポンポンとたたく。 その後ろから目を真っ赤にしたフロランが「ほんっとお前って人騒がせなヤツ!すごく大変だったんだからな」 プンスカ怒ったような顔で言うけどちっとも怖くない。だって睫毛に涙が溜まってるよ? その横からクリストフェルがフロランにハンカチを差し出しながら「ジークも無事に戻ってきたよ、フェルが学院を抜け出したことも誰も気づいてないから安心してユックリ眠って」なんて言うもんだから、ボクの睫毛も濡れちゃったじゃない。 ジークってお利口だなぁ…自分で帰ってくるんだ。 二人はまだ捕まってないって、どこまで逃げたのかな。もうよその国に行ったのかな? そんなことを考えながらボクはシグの毛布を抱きしめ、また眠った。

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