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罪 【2】

怒涛の秋季休暇が終わった。 屋敷の焼け跡からは誰の遺体も見つからず、カーティスとコピーの行方も未だつかめず、失態を犯した形となった地方警察が躍起になって探している。 フェルは寮の4階の自分の部屋で、荷物を入学した時のカバンにまとめた。来る時はスカスカだったカバンが、みんなにもらったプレゼントのおかげでパンパンだ。机の上には教科書と体操着と夜着と制服がキチンと揃えて置かれている。着ているシャツの中には大事な夜光石のネックレスを首からかけていた。 夕暮れのシンと静まり返る寮の4階から5階へと上がり、ジュリアス様の部屋のドアをノックする。 テオフィルさんがドアを開け、ボクを見ると嫌な顔をするが部屋へ通してくれた。 窓辺のソファに腰掛けていたジュリアス様は、ボクを見るなり驚いた顔で立ち上がった後テオフィルさんを下がらせた。 大きいソファに座るよう促されたボクは腰を折り、深々と頭を下げた。 「なんの真似だ…」震える声でジュリアス様が問いかける。 「ボクは犯罪を犯しました、だからこのまま自首します。この学院に来れて、ジュリアス様に出会えて、思いが通じあえて幸せでした」 真っ直ぐにジュリアス様の瞳を見上げ微笑みながらそう言うと、ジュリアス様はボクの手首を2つまとめて掴むと もう片方の手でボクの腰を抱き上げ、向かいの大きなソファへ押しつけ覆いかぶさるようにのしかかった。 「……どれだけ心配したと思ってるんだ!!」 片足をソファに乗り上げ背もたれを掴み、もう片方の手はボクの顔の横に置かれ小刻みに震えていた。 真上にあるお顔を見上げると、そのまま降りてきてボクの頬にピッタリと頬がくっつきそのまま抱きしめられた。 「朝フェルがいないとわかった時、焼け落ちた屋敷を見た時、オレがどんだけ…この3日間どこにいたんだ?」くっついた頬が熱い。 「ごめんなさい…」 「自首して?牢に行って?私から離れるというのか?」 コクリと頷くと、目がカッと見開かれ顎を強い力で掴まれた。 「ふざけんな!犯罪を犯しただと!?そんなもんオレはもっといっぱい犯してる!オレは怒りに任せてアイツを切りつけ私刑にしようとした!コピーとネヴィルにケガも負わせた!」 「それもみんな…ボクのせい」顎を掴むジュリアス様の手に手を添える。 「ボクはもうジュリアス様に愛される資格はないんです。ボクのせいでジュリアス様のキレイな手が汚れちゃう…だからもうボクは…「させない!!」」 ギリッと音がなるほどに顎を掴む手に力が加わる。 「いた…ぃ」 「犯罪!?オレはもっといっぱいやってるぞ。フェルには言えないようなこともいっぱいだ、オレはキレイなんかじゃない」 だから… 「だから一緒にいてくれ  どこにも行かないでくれ  オレを…許してくれ―――」 両腕にギュッと抱きしめられフェルは戸惑う。 「フェルが牢に行くならオレも行く オレの罪はもっと重いからな」 フッと笑うジュリアス様のお顔が滲んで見えにくくなる。お別れしたくない、大好きなのに、ボクは…あんなことしたボクが一緒にいてもいいの?ジュリアス様汚れちゃわない? 「コピーが逃げ出しカーティスを連れて屋敷に火をかけ逃げた。それで事件は終わったんだ」 ボクの罪は…? 「それでいいんだ、そうしてくれ…それで許してくれ…」 なんでジュリアス様が許してなんて言うんだろ。悪いのはボクなのに 「愛してるんだ…あの時フェルの一生のお願いをきけなかったオレを許してくれ。離れないでくれ、ずっと一緒にいるって言ってくれ―――」 「…ずっと……?」 ずっと一緒になんていられないのに あと4ヶ月で外国にいっちゃうんでしょ? いつ帰ってくるの?待っててもいいの? 「留学…?誰に聞いたんだ。確かに来年春から行く予定だったが夏頃に取りやめたぞ?フェルと両想いになれたのになんで外国なんか行かなきゃならないんだよ」 だって…だってテオフィルさんが 「ずっと一緒だ、離れないぞ。Petit frèreにもなってもらうからな!今回の事件で王立警察長官や警官の前でフェルがオレの大事な人だって言った。王立警察を動かす許可をもらいにいった時、父王にも言ったんだ」 『オレの命よりも大事な人なんです助けてください』―――と 「もう絶対逃さないからな、嫌だって言っても無理やり公言する。オレだけの証だPetit frèreになれ」ボクの返事も聞きもせず熱い唇がボクの口を塞いだんだ ごめんなさい…ボクのせいで…だけどボクのために…嬉しい ずっと一緒にいていいんだ、どこにも行かないんだって 犯罪してごめんなさい、沢山の人に迷惑かけてごめんなさい 「もう どこにも行くな…?」 申し訳無さと嬉しさと安堵で声にならないボクは、返事をする代わりにその唇にチュッとキスをした。

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