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第3話
・許容範囲は、20代から50代。
・痛いことはNG。
・唇にキスはNG。
・本気になるのはNG。
・セックスの最中は部屋を暗くする。
・それ以外は時に制限はなし。
俺が客に提示している条件はこれだけ。
この条件で俺はもう何年も男に身体を売って生きてきた。
自営業だった実の父親が事業に失敗して、蒸発した時に発覚した借金を返済するために俺は大学を辞めた。そして社会的地位がない俺が出した結論が男娼まがいのこと。それが金を作るには手っ取り早いと思った。ついでというわけではないけど、不運なことは重なるもので、ちょうど同じ時期に、恋人だった男が母親といつの間にか恋仲になっていて駆け落ちをするかのように俺を残し二人で消えた。
まさに人生のどん底を味わった俺は、いつしか、誰も信用しない、誰も愛さない、そんなつまらない人間になった。
元々ゲイだった俺が不特定多数の男を相手にすることには抵抗はなかった。それに、一夜の割り切った関係を楽しむ男が殆どで後腐れなく着々と借金を返すことが出来た。
たまに契約違反で本気になられてしまうこともあったけど、そんな時は二度と会わないように姿を消すことでなんとかしてきた。
この世の中、どんなに地位が高い立場の人間だろうと目の前の欲には勝てない。運良く容姿が整っていた俺は、そういう高い地位の人間に気に入られることが多く、俺を抱く為に時間を作り、金を貢いで気に入られようとする。
そんな男が後を絶たない世の中に絶望しつつも、借金を返済し終わったあともなんとなくこの生き方を続けていた。
決して真っ当な生き方ではないことくらいは承知だ。だけど、なりふり構っている場合ではなかったと、いつも無理矢理に正当化して過去に蓋をする……三十過ぎのいい大人が最低だと思いながらも、今夜も俺は客を取る。
だから余計なのかもしれない。
そんな俺の腐った人生とは縁遠いような真面目そうなあの男と出会い、一度きり一夜を共にした時のあの優しさが……
ずっと忘れられないままなのは……
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