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第7話

もう二度と来ないつもりだった…… 「潤……様……お久しぶりです」 「久しぶり」  なのに、最後にもう一度だけ会いたいと思ってしまった。 「佐伯様と待ち合わせですか?」 「いや、違う」  佐伯とは、あの後なんとか部屋から逃げ出し、後日電話越しでもう二度と会わないと伝え縁を切った。 「また、降ってきましたね……」 「……え?」 「雨です、ほら……」  目の前の窓ガラスが次第に雨粒で濡れていく。  打ち付けては流れ落ち……それはまるで…… 「やっぱりほっとけない人だ……」 「……え……?」  窓ガラスに映る自分の顔を塗りつぶすかのように雨粒が覆い尽くす。 「ほら、あの日と同じ顔をしてる」  あの日、一度きりと一夜を共にした男に言われた言葉…… 『雨粒が流れ落ちる窓ガラスに映るあなたの顔……泣いているみたいでほっとけなかった』  記憶の片隅に閉じ込めたはずの言葉がリンクしていく。  愛とか恋とかめんどくさいモノは過去に全て捨ててきたはずだったのに、俺は和泉の優しさに触れ、捨てたはずの感情をぶり返してしまった。それでもずっとそれに気づかないフリをして、今まで蓋をしたまま生きてきたのに…… 「和泉、お前がやっぱりあの時の……」  窓ガラスに映る和泉とガラス越しに目が合う。 「あの日、窓ガラスの向こう側に映るずぶ濡れのあなたはとても寂しそうな顔をしてました」  あの日、俺がたまたま雨宿りしたのは和泉の店だったらしい。そこで室内から俺を見つけた和泉が和傘を差し出した。そして一夜を共にした翌朝、和泉の姿はなく、代わりに和傘だけが部屋に残されていたのだ。  その和傘と一緒に添えられていたメモには、 『傘は自由に使ってください。もう、あなたの心が雨で流れていかないように……お元気で』  そう綺麗な字で書かれていて、俺はそれを今でも大事に持っている。  傘だって返しに行こうとすれば行けたはずなのにそれはしようとはせず、俺は今日までその和傘を大事に使い、傘を手にする度に、あの日を、あの優しさを思い出していた。 「でも、どうして和傘を……」 「俺、あの傘屋で働きながら和傘を作っている……和傘職人なんです。だから、あの日置いてきた傘は俺が作った傘で、それに……和傘って魔除けだとも言われていて、潤さんを守ってあげられるようにって意味もあったんです」 「魔除け?」 「そう……」 「何で……そこまでお前は……」 「理由が必要ですか?ただ、あなたのことがほっとけなかった。でも、一度きりだと念を押されてしまったから、せめて……俺が作った傘を……そう思ったんです」  初めて会った男にどうしてそこまでできるのか…… 「お前、馬鹿だろ」 「そうかもしれませんね。今までずっとあなたを好きなままでいたくらいですから」 「好き……って」 「きっと一目惚れだったんでしょうね」  その後、俺と佐伯がここを利用して和泉が俺たちの専属のバトラーになったのは偶然だったらしい。それから佐伯とのこともあって、気持ちを抱えたままで俺たちのバトラーを務めていたのだとか。 「佐伯様とはもう終わったのでしょう?なんとなく察してました。お二人の関係も、何かがあってその関係が切れたのも。だから……もう我慢はしなくていいと……だから」 「悪いが、俺はお前には相応しくない。和泉にはもっと……」 「言ったでしょう?ほっとけないってっ」  和泉が少し声を荒らげると次の瞬間、徐に俺の手を取るとフロアの外へと連れ出された。 「おい、和泉っ!」 「すみません、ここでキスするわけにはいかないので……」  俺だけに聞こえるように耳元で囁く声が熱い。  和泉の声が、息が……

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