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第8話
「さ、入ってください。見つかったら間違いなくクビなんで、後で潤さんの名前で宿泊手続きしときます」
いつものスイートルームではない、一般客用の部屋。その部屋に入るなり、掛けていたメガネを外すと宣言通り、即座に口を塞がれキスをされた。
「……ッ……ん、ッ……」
「……ッ……契約違反とか言わないでくださいね」
「言うわ、け……ッ……ん、あッ……な、い……けたど、俺は……お前の気持ちには……ッ……応えられない」
「もしかして佐伯様のことを……」
「ち、違うッ……!」
「じゃあ……」
唇が離れた隙に、和泉を押しのける。
「……ッ……俺は、もう誰も愛さない!」
「俺は……ただ、あなたを守ってあげたい……好きだから、ほっとけない」
「それでも……無理、だ……」
「俺はどんなあなたも愛してます……」
頬を伝うのが涙だと自覚できたのは、和泉の告白から数秒あとのことだった。
なんで、俺……泣いてんだ?
「潤さん……」
「やっぱりダメだ、俺は身体を売って生きてきた汚い人間だ。お前に好きになってもらう資格なんてないし、誰も愛しちゃいけない……それに……」
また裏切られたらと思うと……怖い。
「泣かないでください。俺はあなたの全てを受け入れる覚悟はあります、それに、もう二度と離しくないんです」
「でも……情けないけど……信じて、また裏切れるのが……怖い……だから、お前にも……」
涙が止まらない。
泣きたいわけじゃないのに、涙が溢れてくる。
「俺がそんな男に見えますか?」
「……正直、分からないよ。お前は優しい男だと思う。でも、絶対は存在しない」
「じゃあ、一生かけて分かってもらいます……絶対に潤さんの傍から離れない。だから、俺を受け入れてください……」
必死に説得をする和泉の真剣さに、いつの間にか俺の中でせき止めていた気持ちが溢れ出す。
「和泉……」
「大丈夫……大丈夫ですから……」
繰り返しそう口にする和泉に抱きしめられていると、ゆっくりと身体の力が抜けていく。そして「絶対に約束します」と、告げると俺の口を再び塞いだ。
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