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第4話

「お疲れ様。どうぞ」 「あ、お疲れ様です。お邪魔します」  そしてその夜。俺は仕事終わりに真倉さんの家を再び訪ねた。  いつもは大体仕事前に整えるから夜に会うのは初めてで、仕事じゃない訪問も初めて。  お互い終わるのが遅かったからそれぞれに夕飯は済ませていて、本当に眠りに行くだけ、という状態になってしまったからより一層どういうテンションで訪ねるのが正しいのかわからなくて。  結局近くのコンビニで少しばかりの酒とつまみを調達して真倉さんの家に訪ねることとなった。  朝ほどひどくはないものの小雨が降っていて、これからもう少し強くなりそうな予感がしたのは真倉さんの頭らへんの毛がうねうねとウェーブ気味になっていたから。湿気が見えるようだ。  それにしても、この状態で二人きりの夜はだいぶ緊張する。  例えば 『抱き枕』たちはソレだけが目的で、眠るために気を散らして疲れさせてもらうだけだからどういう態度を取ろうがどう見られようが興味がないんだけど。  真倉さんはお客さんだけど本来の仕事とは少し違う形で関わっているし、それさえも関わらない状態で会うことは今までなかった。それなのに急に色っぽい意味ではなく夜をともにするなんて、珍しい距離間で緊張してしまう。 「それじゃあ少し早いけど寝ようか」  少々のお酒の力を借りつつ、それでもそれなりに楽しく会話をして、なんとも微妙な気持ちでシャワーを借り、ついでに変な癖がつかないようにと真倉さんを乾かしてブラッシングしていたらあっという間にその時間になった。  真倉さんに案内された寝室は余計なものがなくリラックスするための空間としてあった。  それなりに背の高い俺より大きい真倉さんがゆったりと寝られるようにか、キングサイズくらいあるんじゃないかという大きなベッドが一つ座しているだけの、まさしく寝るための場所だ。この大きさなら普通に二人で並んで寝られそう。  ちなみに俺の安眠という目的のために真倉さんは上半身裸という格好だから、余計気まずい。 「さあおいで」  けれど特になにも思っていないのか、ベッドに寝転んだ真倉さんは俺へと両手を広げてそんな風に招いてみせた。年はさほど変わらないはずなのに、なんだか大人の余裕を見せつけられてしまった。  いや、元々ベッドは眠るための場所だし、俺もそのために来たからそれでいいのだけれど、微妙に釈然としないのはなぜなのか。 「思う存分抱き枕にしてくれていい」  そうやって迎えられて、お邪魔しますとベッドの中に入る。すると真倉さんに包まれるように抱きしめられた。  格好が格好だからと、不可抗力でやらしい感じになってしまったらどうしようかと焦る気持ちを一瞬で沈めたのはその感触。  ふわふわだ、すごく、ふわふわ。なによりとても温かい。  安らぐほどの柔らかさと、でもその奥にある人肌が、緊張に強張っていた体から一気に力を抜いた。人とも犬たちとも違う力強くて守られるような優しい感覚。  そんなぬくもりに包まれて、俺はいつの間にか、気づかないくらいあっという間に眠りに落ちていた。

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