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第19話 ハンザイシャ
ずっとしたいと思ってた。先生とキスしたかった。押し倒されてからキスをしてね、算数を教えてくれた優しいこの人の唇に吸い付いて、舌を入れるの。
「ン、ぁっ……」
そしたら、先生も舌を入れてくれて、俺の口の中をたくさん激しく犯してくれるんだ。唾液が零れるくらい。
それで、それから、裸になって――。
「……」
先生が手を止めた。道着の合わせ目、心臓のとこに手を置いたまま、脱がすでもなくただじっと、上から俺を見つめてる。
「せ、んせ?」
早く、しようよ。俺は脅してるんだ。だから、今、ここで俺の言うとおりにしないとバラされて大変なことになっちゃうよ? 俺のこと早く、抱かないと。先生、早く。
「……初めてだろ?」
落ち着いた声だった。まるで、道着越しでもバレてしまいそうなくらい飛び跳ねてうるさい鼓動も聞こえちゃいそうな、落ち着いた静かな声。
「! そ、そうだけどっ?」
だからその鼓動を知られないように、わざと大きな声で、少し強い口調で頷いた。初めてに決ってる。俺の初恋は先生なんだから、それでその先生に今からしてもらうんだ。ずっとあった願望を叶えてもらうの。
悪いことをしてるのなんてわかってる。バレたら大変なことになるのだって、ちゃんとわかってて、それでも先生に抱いてもらいたいんだ。最初で最後でもいいから、ずっとしたかったから、お願いをした。
「ショートのあの女性、色白で、似てただろ?」
「?」
誰に? そう首を傾げたら、その首筋にキスをされた。うなじに吸い付かれて、生まれて初めてそんなところにそんなふうに触れられて、知らない声が零れる。
「色白……うなじのとこ真っ白で」
「ぁっ……ン、先生っ」
ねぇ、誰に?
「髪、ショートで、後姿なんてそっくりだ」
「……」
ねぇ。
先生は俺の頭を撫でて、髪にもキスをした。髪なんてさ、別にちょきちょき切ったって痛くもないのに。
「ンっ」
なんで、先生にキスされて感じるんだろ。酷く甘い快楽が触れられた髪から伝わって、触れられてないお腹の底に溜まってく。そんなとこ、なんで手ぐしで撫でられて気持ちイイんだろ。
髪なんて、ただの。
「……先生、あ、あンっ」
「そっくりだ」
似て、る? 誰に? 色白で、髪が短いのは、誰? ねぇ、この手が教えてくれるのが、そうなの? キスして撫でてくれたのが、答え、なの?
「そ、それって、おっ……ン、んんんっ」
舌で邪魔をされて言えなかった。昨日、先生と一緒にいた色白でショートカットの女の人が誰に似てるのか、確かめたいのに言わせてもらえない。
口の中を舌でたっぷりまさぐられて、答えるどころか息するのだって難しくて、ちょっとの隙間から慌てて空気と一緒に先生の唇に噛み付く。ただ、噛み付きながら、しがみ付いた。
「あっ、はぁっ、はっ、ぁっ、せ、んせ、先生っ、似てるのって」
「言わない」
「っ」
「これは犯罪だ」
「そうだよ。俺が」
「違う」
「あっ……っ」
道着の中にスルリと先生の手が忍び込んできた。しちゃいけない行為だから、静かにこっそりと、侵入していく。
「お前は教師の秘密を知って、それを口外されないように、ここで無理矢理されたんだ」
「なっ、ちがくてっ」
俺が脅したんだ。抱いてくれなきゃバラすんだからって、脅した。
「好きでもなんでもない女をめんどくさい上司に紹介されて、うんざりして、欲しいものの身代わりをたててみたがただ欲求不満になるだけ」
「え? 先生? それって」
「そりゃそうだ。本物じゃないんだから」
今、言ったことって。なんで、そんな切なげに俺のこと。
「むしゃくしゃして自棄になった教師に、無理やり、犯されたんだよ」
「っあ」
その言葉どおりに、先生の手が悪いことをしようとしてる。生徒の道着の中に忍び込んで、肌をまさぐって。いけないことをしようとしてる。
「先生のいうことがきけないのか?」
そして、耳元で囁かれた。
「あ、せんせっ、直江、せんせっ」
「悪い生徒にはお仕置きしないと、だろ?」
囁きながら、俺の素肌を撫でてくれた。その手はとても熱くて、とても優しく、俺にいやらしい声をあげさせた。
どっちも悪者だから、このセックスは犯罪。
「ぁ、ぁっせんせ、っ、ン、ぁ、それ、ダメっ、ぉ、尻、舐めちゃ、や、ぁっ」
俺は悪い子。先生が理事長の娘だけじゃなくて、誰かさんにそっくりなショートカットの女の人とデートしているところを目撃して、脅した悪い子。いいの? 先生が二股なんてしたらいけないんだ、ってこっそりここで脅かして、口止め料に抱いてもらうんだ。
「葎、床を汚してる」
「ぁ、あっだって、先生がっ」
先生は悪い人って自分のことをいう。秘密を握られて、その生徒を口封じのために犯してしまう、すごく悪い教師。
「やぁぁ……ン、それ、らめっ」
俺にひどいことをする悪い大人、なんだって。
秘密を知って脅そうと思った俺は返り討ちにあって、脅しの材料に犯されてるんだって。
「あ、あっ、ぁン、やぁっ……あっ」
でも、先生の舌はひどいことをひとつもしないよ、先生。
「あ、舐めちゃ、やぁ……ン、ぁ、そんなとこ」
先生の指は気持ちイイことしかしないよ。
「あ、あっ、ン、先生、手、汚しちゃうっ、前、触っちゃ、や」
「あぁ、葎の嫌がることをしないとお仕置きにならないだろ」
「ぁ、あぁぁっん」
舌で濡らしてもらった孔がヒクンって口を窄めるくらいに感じてるのに? 四つん這いで恥ずかしいとこ全部先生に見られて、皆が練習する道場の床の間に透明なのを滴り落としてるのに?
それでも、俺はお仕置きされてるの?
「……ン、せんせ」
「……」
「ずっと、先生のこと想って、オナニーしてた」
孔のとこ、柔らかいでしょ? 内緒だけれど、ずっとオナニーする時はね、お尻でしてた。
「昨日もした……そこ」
「……何を、使って?」
低い声、長い指。先生の。
「先生にその日、撫でて、ぁっン、もらった時のこととか、話しかけてもらった時の声、ぁ、あっ、ん、声、とか思い出して、自分の指、で」
これは、お仕置き? 先生を脅迫した悪い生徒だから?
「でも、全然違う、の」
力が入らないくらいに気持ちイイ。四つん這いで、道場の床に顔をくっつけて、お尻ばかり高く掲げて変な格好。道着はもうぐちゃぐちゃに着崩れて、足袋だけ残してておかしいでしょ?
恥ずかしいのに、気持ちイイの。
「オナニーの時、お尻、ぁ……ン、こんなに、気持ち良くなかったよ」
「……」
「声、こんな声、自分のじゃ、ないっ、みたいっ」
「……」
「気持ちイイ、先生」
本当に、これはお仕置き? 悪いこと? 俺は、今、先生に犯されてるの?
「先生、もっと、したい」
おねだりしてるのは、セックスしたいって欲しがってるのは。
「せんせ……」
俺なのに?
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