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第29話 蕩けるアイス

 甘い甘いアイス。棒のだからすぐに溶けちゃうって、その場でいただいていた部員が慌てて口に運んでた。冷たくて美味しい、って嬉しそうに。 「大学院に行ってるんだって、先輩」 「……へぇ」 「先生を呼んできますって言ったら、前の担任だった高等科の先生に用事があるからって、弓ちょっと引いて帰っちゃった」  同窓会をするからその名簿作りで何か用があったみたい。弓道部はちょっと寄っただけ。 「先生にも会いたいって言ってた。でも課題レポート作成がたくさんだから時間がって、残念がってたよ。だから数学準備室じゃなくて道場のほうに……」  いればよかったのに。  そう言おうと思って、言葉が飛んだ。  数学準備室には窓を背にするように先生のデスクがある。でも、ここは他の数学の先生も使うから普段はあまり長居できない。だけど、先生はけっこうここにいるかな。高等科で数学の先生の中ではたぶんリーダー的っていうか。職員室で先生にしがみ付いて勉強してた時、生徒だけじゃない、先生たちもよく直江先生に訊きに来てたし、頼られてるって感じた。  大変そう、って子どもながらに思ったもん。  でもいつも先生は朗らかに笑いながら受け答えしてて、たまにそのことにヤキモチをしてみたり、心配してみたり、胸のところがチリチリ焦げたりしてたけど。  もっと先生を休ませてあげてよ、大変そうじゃん。ぁ、また別の先生が。先生なんだから自分でしてください。こっちの、僕の先生はさっきようやく休憩になったのにこれじゃちっとも休憩にならないよ、って思ったっけ。  いつも笑ってる先生だった。でも、優しいんだけど、俺には少し違う笑い方をしてくれた。違う表情を――。  今も、きっと誰も知らないと思う。  こんな穏やかで、少し寂しそうで、少し、安心したような、なんか説明のできない表情をしながら、たまに座り込んでいるって。今もそんな顔をしながら、デスクの向こう、窓のほうを眺めてた。 「せん……」 「……溶けてる」 「ぇ?」  棒のアイスだから、すぐに溶けちゃうって皆も大忙しで、垂れ落ちそうになるバニラに慌ててた。油断するとすぐに溶けちゃうから。 「……ン」  見てないと、すぐにバニラが溶けちゃうから。 「ぁ……」  溶けて、指を伝って、手首にまで滴った白い雫を。 「ぁ、ンっ」  先生の赤い舌が舐めてくれる。 「あっ」  どうしよ。これ。 「びっくりした顔だな。こうされると思わなかったか?」  また、滴った。 「思わなかった、けど、今、されたいって思った」  白い雫が指を伝って、手首を濡らして。別のトロリとした雫が道着の内側で、じわりと沁みて、濡れたのを感じた。 「ぁっ……ン」  バニラって溶けると甘くて甘くて、喉が渇く。 「んっ……んくっ、ン」  だから先生の唇にしゃぶりついて、舌も口の中も、喉奥まで乾きが潤うまで先生とキスを繰り返す。  大きく口を開けると、先生が指で舌の上をいいこいいこってしてくれた。甘くなんてないはずの指がとてつもなく甘く感じて、丁寧に、口に含んだ。 「せんせっ……ぁ、ン」 「せっかく、おとなしくしてたのに」 「? ぇ、なに」 「数学準備室でおとなしくしてたのに、お前、危機感なさすぎだ」  道着の中を簡単に掻き分けてしまう先生の長い指に、もう滲んじゃってる濡れたのを触られて、握られて、バニラみたいに甘い声が零れた。  数学準備室なのに、ここ学校なのに、いけないことしてるってわかってるのに。 「食われちまうぞ」 「っン」  皆に笑顔で優しい先生が怖い顔をして、悪いことをする。俺と一緒に悪いことを、してくれる。 「ぁ、あっ、ン、ダメ? ン……危機感ないもん」 「……」 「食べて欲しいんだから、ぁ、っ……ぁ」  先生の手、気持ちイイ。 「ダメ、先生、イっちゃう」  ねぇ、数学準備室でおとなしくしてたって、先生が言ったけれど、この数日、少しでも俺とこうしてたいと思った? 「まだ、や……イくの」 「葎?」  フルフルと首を横に振った。  危機感ないのは先生のほうだよ。だって、俺はずっとこの数日、先生に会いたくて、仕方なかったんだもん。  ね? 食べられてるのは先生の指、でしょ? 「ン、指濡らした、よ? だから……」  こんなにびしょ濡れ。その指を両手で持って、もう一度愛しいって伝わるように丁寧にキスをした。  慣れた手つきで道着の中へと先生を誘う。 「ここに、も……先生」  横の隙間から中に手を入れて欲しい。口に咥えられて食べられてるみたいにしゃぶられた指は先生の指。長くて、骨っぽくて、カッコいいその指をね。 「あっンっ……ここ、もっ」  その指をね、ここにも欲しい。 「あ、ぁ、あぁぁあっンっ……っん」  トロリと溶けたバニラが口から流し込まれる。やらしくてはしたなくて、いけない食べ方してる。せっかくいただいた差し入れのバニラアイスは溶けて、飲み干しちゃった。 「あ、ンっ」  特別甘いバニラだったから。 「ぁ、先生っ」  喉奥が燃えてるみたいに熱くて、とろりと伝った甘いのがお腹の底に溜まっていく。 「センセ、の」  これも欲しい。スラックスの中ですごく硬く大きくなったのを掌で下から上へなぞって撫でた。 「お前な、なんて触り方を」 「悪い子だもん」 「っ」  先生の手にも、ごめんなさい。いつの間にか溶けたアイスがくっついてた。ほら、腕のとこ。ベトベトにしちゃった。袴の内側で撫でてくれる先生の手と同じべとべとに。 「先生こそ、危機感なさすぎ」 「っ」  甘くて美味しいバニラ。 「食べられちゃうよ」  袴の前、結び目を解けば、簡単に広げられる。 「せんせ…………ぁ、あっ、ああああああああ」  広げて、抉じ開けられて、また滴り零れた。先のところから、白くてトロトロしたのが。 「あ、ン」  熱くてあっという間に溶けちゃったみたいに、たくさん零れて、少し恥ずかしくて。 「ン、先生」  抉じ開け貫いてくれた大好きな人にしがみ付きながらキスをした。

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