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第31話 隠密デート

 ――どこにいる?  ――んー、大きな本屋さんの手前の映画のポスターが立てかけられてるとこ。  ――ないぞ、そんなの。  ――あるってば。アニメの。  ――ない。  あるってば。 「んもー……」  先生、反対側じゃん。  イケメン。デートかな、少しラフだけれど清潔感のある服装をした男性が一人スマホ相手にとても険しい顔をしてた。カッコいい人。しばらくここから観察してたいけれど。  髪、セットしてないからか、先生なのに教師には見えないセクシーさがあって、あれじゃ女の人に声かけられちゃいそう。  ――そっちじゃないよ。反対側。  だから、そうメッセージを送信した。  あ、探してる。 「!」  不思議。この距離で目が合っただけでもドキドキする。エッチなことだってもうしているのに。  デートだからかな。  練習試合で勝ったご褒美にデートしたいっておねだりしたら、本当にしてくれた。しかも都心の人がわんさかいるようなデートスポット。夏休み真っ最中のこんなところはあっちもこっちもカップルと観光客だらけだから、むしろ目立たないと思ったんだ。  先生は髪型をラフに変えてちょっと変装を。俺は、眼鏡、伊達だけど、それで少し誤魔化してた。  だからかな。ちょっといつもと違う先生が見れるから、こんなにドキドキしてるのかな。 「直、っ、さんっ! こっち、ですっ」  それとも今日は、先生って言っちゃダメだから、かな。  先生って呼んだら一発でアウトでしょ? だから、今日は「先生」は禁止ワード。代わりに直江、直江さん、直さん、その三択を迫られた。  選んだのは、直さん。けど、まだちっとも慣れなくて、どうしてもつっかえちゃう。そりゃそうだよ。だって、もうずうううっと「先生」って呼んでた人なんだから。それに、もう一つ、ドキドキしてる理由がある。 「眼鏡、可愛いな」 「!」 「すげ、顔、真っ赤だぞ」 「だ、だだだ、だって!」  先生が、なんか、変わった。 「す、好きな人に褒められたら、嬉しいじゃん」  今まではこういうの言うと、少しだけ、ほんの少しだけ、困ったような顔をしてた。切ない、っていうか、少し空気がゆらりと揺れる感じ。 「じゃあ、もっと褒めてやろうか?」  それが今は揺れない。笑って、今は人がいるから、髪を撫でてくれる。人がいなかったら、挨拶のようにキスをくれる。  好きと言葉に出しても、その返事は言葉ではないもので、返ってくる。とても真っ直ぐに迷うことなく、そんな感じ。 「……っぷ、すごいな。褒め待ち顔」 「な! ないんじゃん!」  連絡もね、していいんだって。  先生は今何してるの?  映画観てる? 今、テレビで放送してるやつ。え? 知らないの? この映画すっごいヒットしたじゃん。  夏休みの宿題がわからないよー。  今日は部活の差し入れありますか? あったら俺も買いに行く!  先生、おはようございます。  おやすみなさい。  大好きです。  なんでもいいの。なんでもメッセージ送っていいんだって。そう、あの日に言われた。部活が終わった後、数学準備室でセックスをした日に。  居眠りをしていた先生が目を覚まして、微笑みながら俺を抱き締めた。優しいけれど強い腕に抱き締められながら、耳元で言われたんだ。  何かなくても連絡してきていい。  そう言われて、何かなくてもって、本当にくだらないことで連絡しちゃうんだからねー、なんて冗談で返したんだ。わからなかったから。先生のいうくだらないことがどのくらいのことをいうのかわからないから。それなのに、先生は笑って、朝の挨拶だってなんだってかまわないと言った。 「ほら、葎、映画の上映時間はまだ先だ。ブラブラするぞ」 「あ、は、はいっ」  あの日から、先生がなんだか変わった。 「手、繋ぐか?」 「い、いいの?」  こんなこと、言われるなんて思わなかった。 「あぁもちろん」  こんな思い切りデートらしいデートを先生としていいなんて、想像もしていなかった。 「あ、ン……せ、んせ」  映画、楽しかったね。アクションシーンは大迫力で、日本映画なのにすごいド派手シーンの連続でびっくりしちゃった。 「ぁ、あっ、せんせっ、ン、ぁ、イっちゃう」 「あぁ、いいぞ、イくところ、見せて」 「ン、んっ、んんんんんっ」  指を中で曲げられて、前立腺のとこを可愛がられて射精した。 「すごい飛んだな」 「っ、やだ、言わないでよ」  変装アイテムだった眼鏡にちょっと飛んじゃったんだ。四つん這いになって指でされてたら気持ち良くて、最後、イく瞬間、指にもっとってねだるように身体が丸まっちゃった。その拍子に、飛んじゃった。 「あっ……ン」  抜ける指に孔の浅いところを撫でられて零れた甘い声。  寝転がらされて、上から見つめられると心臓がトクンって小さく跳ねた。カッコいい俺の先生が、息を乱して興奮してくれてるから。指でほぐしながら、俺のせいでそんな苦しそうな顔をしててくれたんだって思うとたまらなくなる。今すぐ、奥までされたいと、自分から脚を広げた。  来て欲しくて。 「葎」  頬を大きな手で撫でられるのも快感になる。  さっきまで、たくさん人がいるところでデートしてた。映画の時間までブラブラして、手が触れ合ったら、ただそれだけで嬉しくて真っ赤になって、先生にからかわれて。 「ン、せんせ、手、繋いだまま、したい」 「甘ったれ」 「あン」  映画を観てる間はずっと手を繋いでた。カーチェイスのシーンとかすごかったんだけど、その間だって、手を繋いで、指で指を撫でられた。 「だって、先生の手、好き、ン……んん」  ベッドで組み敷かれて、先生のことを見上げながら、その指に頬をすり寄せる。  指の間を擦られて、ゾクゾクしてたから、触りたい。まるで誘惑するみたいに指をもてあそばれて煽られたのに、その後、有名なパフェとか食べに行こうって言うんだもん。美味しかったけど、甘いの好きだけど、焦らされてる気分だった。  そこまでは子どものデートコース。  今は、先生みたいな大人用のデートコース。 「あ、せっ……ん、せっ」  ラブホテルはダメって怒られた。だからビジネスホテル。チェックインの時はできるだけ離れて、手続きが終わるのを待っていて、終わったら、そっと歩み寄るの。  お泊りは事前に親に言わないと、ダメ。 「あぁぁっ直、せんせっ」  やっぱり先生だ。そういうとこがすごく先生っぽい。  けど、そういう先生が好き。 「眼鏡してる葎も可愛いが」 「あ、ンっ」  真面目に先生でいるのに。指を愛撫して、映画を観てる間ずっとセックスのことを俺に想像させるやらしい人。 「そのままの葎が一番だ」 「あぁっン、そこ、や、すぐイっちゃうってばっ」  やらしい声。やらしい音。やらしい匂い。自分の、飛んじゃったのが、お腹の上をすでに汚しながら、それでもお尻を抉じ開けられるセックスに喘えがされる。 「あっン」  先生なのに、やらしい男の人。 「あ、ぁっン、ン、あ、」 「葎、中、気持ちイイぞ」 「あ、今、言うの、ズル、い、そんな、ぁっ……イっく、イっちゃうっぁ、あっ」  俺の大好きな、俺の先生。 「あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁっ」

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