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クリスマス編 2 ケチんぼ先生

 大嫌いだと言ったら泣いてしまって。あんなにドッヂボールの強い子が泣いてしまったことに驚いて、追いかけた拍子に転んでしまったんだ。  したたかに膝を床に打ちつけて。  ドジだよね。  でも、あのあと、貼ってくれた絆創膏を剥がしたくなくてずっとずっとつけていたくて、少しでも剥がれたら悲しいからって、まるで大怪我をしたかのように、お風呂では湯船に入る時とか、ぎゅっって手でそこを押さえつけていたのを、母に大袈裟ねって笑われた。でも、俺にとっては大袈裟すぎるくらいでも足りないほどに大事な絆創膏だったんだ。 「あれ? それってこの前の絆創膏じゃね?」 「あ、うん」  そしたらシュウ君に見つかっちゃった。 「取らねぇの?」 「うん」 「ふーん」  取らないよ。だってだって先生につけてもらったんだもん。  シュウ君は大親友だけれど、なぜか、僕はその膝小僧を隠してしまった。そっと掌をそこに重ねて、体育座りの自分の脚をもっと小さく折りたたむ。 「これは……取らないの」 「ふーん」  その時、ピピーッとホイッスルが鳴った。 「ほら、行くぞ。葎」 「あ、うん」  合同体育。シュウ君につられる様に立ち上がりながら、その動きで絆創膏が取れちゃうんじゃないかって、僕はじっと自分の膝小僧を見つめながら、そっとそっと集合がかけられた運動場の中を走った。。 「お前、その日の夜には取り替えろって言っただろ?」 「……」 「何に膨れてるんだか」  だってだって、取れちゃったんだもん。体育の授業の時、体育着から制服に着替えたところで取れちゃったんだもん。ズボンに引っかかってさ。  そして、その絆創膏が張り付いていた外側のところがぐるりと一周、糊がくっついてしまっていた。 「先生、絆創膏また貼って」 「……怪我、してないだろ」 「……」 「膨れてもダメだ。怪我してないのに貼る意味がないだろうが」  あるんだもん。  僕には意味が、あるんだもん。 「もう! 先生のケチんぼ! 算数教えてっ!」 「はいはい」  ほっぺたをたくさん膨らまして、職員室で、今日教わったばかりの算数の問題をノートごとケチんぼ先生に押し付けた。 「ねぇ、先生は青と緑、どっちが好き?」 「…………何においてだ」  チラリとこっちを見て、またタブレットの画面に視線を戻しちゃった先生に、ぷぅ、って頬を膨らましてみせた。  青か緑、どっちの色が好きかを訊いてるの。何においても何もないの。好きなほうの色を訊いてるの。 「……どちらの色も、好きだよ。二択を迫るのなら、何において、なのかを言え」 「んもー」  だって、それを言ったら台無しなんだもの。青か緑、どっちが先生は好きかを教えてくれるだけでいいのに。 「んー……青かなぁ」 「さぁな」 「服、青いの多いよね」 「そうか?」 「うん。昨日着てたシャツも青だったし、カーディガンも青いの持ってる。あ、あと昨日は」 「下着も青だったな」  言うの、照れくさいから止めたのに。 「でも、スマホのケースは緑だぞ?」 「あ……」 「それからマフラーも緑」 「えー?」  じゃあ、どっちが好きなの? わからなくなっちゃったじゃん。 「……ネクタイ?」 「ちょっ! んもぉ!」 「そういや、そろそろクリスマスか」 「あっ……ン」  それ、プライバシーの侵害だって、頬を膨らませながら慌ててスマホを床に伏せた。でも先生はそんな俺を見て笑うんだ。笑いながら、キスをくれる。しっとりと重なる唇に、蕩けそう。 「気にするな。プレゼントなんて」 「あ、ン」 「いらない。クリスマスプレゼントは……」 「ンっ」 「お前がいればいいよ」 「ン」  ズルい先生。わかってるけれど、たまにこうして意地悪をする。くれないの。俺の欲しいものを、たまに「ダメ」ってお預けする。 「懐かしいな、その顔」 「?」 「ケチんぼ先生」  そのスマホを伏せた手に手を重ねて、鼻先を俺の首筋にくっつける。 「あンっ」 「可愛かったな。あの膨れっ面」  あの時、「ダメ」ってお預けをされたのは絆創膏。膝小僧に永遠貼り付けていたかったのに。  今も、プレゼントしたいのを「ダメ」って言うの。 「ン、ぁ、そんな大昔のこと、覚えてる、の?」  まだ自分の恋心を自覚するずっと前のこと。 「覚えてるさ。俺が貼った絆創膏にやたらと嬉しそうな顔をして」 「ン、ん」 「可愛かったからな」  くすぐったいのに、触れられるのが大好きだから、自然と首を傾げてそこを撫でられたいと差し出した。  スマホを握る手に覆い被さる大きな手、指が、スマホと掌の間に割り込んで、指の付け根をくすぐる。  小さなこそばゆさに混ざる、小さな快感。 「あっ、せんせっ」  唇を吸われて、小さな快感がゆっくりじっくり熱を帯びていく。 「ン、んっ」  舌が絡まり合う濃厚なキスに変わった頃にはもう。 「あ、先生」  また、意地悪、する? 「ん? どうした? 葎」 「先生、したく、なっちゃった」  まだ「ダメ」ってする? 「何を? 言ってくれないと、わからないぞ」  意地悪な。 「ケチんぼ先生、ぁっ……ン、もっと、触って」  言いながら自分で下着ごとズボンを下げて、服を捲くって曝け出したら、  意地悪な指が服の中で小さく硬くなった粒を、濡れて火照った芯を、可愛がってくれた。

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