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第6話
指で持ち上げたそこを先端から飲み込む。
骨ばったヒミズさんの右手に力が込められたのがわかった。
「……ッ……」
押し殺した声。
他人に決して弱みを見せない高潔な魂を直で握って、支配しているような気分。
左手で上下に扱きながら、先端を咥えこんで裏筋を丁寧に舐める。右手の指先で奥の隙間をさすっていると、ヒミズさんの呼吸が乱れてきた。
「………は…」
また!小さい声!
どんな顔をしているんだろう…うっわ見たい!
でもダメだ、見られることが俺以上に苦手なひとなんだから。
反応がだんだん強くなってきた。試しに口を窄めて強めに吸ったら、
― ジュボッ…
げ。変な音出ちゃった。店長はこれ聞くの好きだって言ってたけど…あ!
先走り!
とたんにヒミズさんが逃げ腰になったのがわかった。俺の左手から自分のを抜こうと腰を下げる。
待って!俺ぜんぜん平気です!
考えたくないけどこういうの慣れてるし、ヒミズさんのならいくらでもおかわりできるんだから!逃げないで!
「ンアッ…!」
反射的に強く握り過ぎて、その瞬間ヒミズさんが苦しそうにビクンと跳ねた。
左手の中であえぐヒミズさんの体の大切な部分。
…なんだ、この…圧倒的に心地いい支配感…
むくむくと湧き上がる背徳感と高揚感。
…俺、
今、
すごく、
このひとのこと
めちゃくちゃにしたい …
心臓が強く跳ねる。
握りしめたままゆっくりと視線をあげると、ヒミズさんと目が合った。
きれいな顔が歪んで、前髪が少し乱れて、その隙間からつらそうに揺れる黒い瞳が見える。
右手でシートの端を掴み、左手で座席を押すようにして、その間にあるはだけた肌。
俺の目の前に広がる、白くて逞しい、うつくしい体。
――俺だけの、神獣。
とたんに電気のような何かがぐるぐると背筋を駆け上がった。
――欲しい!
俺のものにしたい!
俺だけのものに!!
ジーンズを下着ごと一気に押し下げる。
ヒミズさんの足の間に埋もれるようにしてそのまま下の服を全部取り去る。
全裸になってヒミズさんの腰の上にまたがって、そこを目視で確認する。
俺の唾液とヒミズさんの先走りで十分ヌルついている。
いけるよね、これなら。
うん、いける!
折り曲げられたヒミズさんの左膝に右手を置き、倒れたシートに左手を置いて、足を大きく広げた。
左手に重心を移して右腕を前に付き出し、ヒミズさんのそこを支える。
ヒミズさんの視界のことなんか知ったこっちゃない。欲しいんだから!
今の俺はなんだか無敵な気がする!
ヒミズさんを取り込めたら、万能になれる気がする、俺!!
「んああ……!」
先端を飲み込むだけで悲鳴が上がる。
やっぱ、デカイ、このひとの……
でも、俺は全部取り込んでやると決めたから!
ヒミズさんの、全部…!
「ひ、ぅん…あッ!…あ… …ああア…!」
体がのけぞる。
左手が安定しなくなって、右手でリアシートの上を掴みなおした。
目をきつく閉じ、繋がっていくそこに集中する。
「ああああッ!」
ズッ、ズッと、自分の重みでヒミズさんの中心を飲み込んでいく。
思わず左手を上げて天井を突く。
「ッああ!」
天井をあおぐとヒミズさんが俺の腰を両手で掴んだ。
沈めてくる。
「ひゃああああん!」
勝手に動くな俺のペースでやらせろ!!
運転席のシートを左手で掴み、力を込めて動きをはばむ。
一気に突き上げにかかったヒミズさんと俺との攻防戦が始まった。
自分のペースでやりたい俺が腰を引き上げ、ヒミズさんの手が引き戻す。
「…ん…んあ… …やあああ!」
力がうまく入らないのとヒミズさんの怪力のせいとで、引き戻されるたびにヒミズさんのそこが深く沈む。
「あっ!あっ!あっ!あっ!」
硬くなった先端で深いところをこすられ、探られていると、
「ッ、ひ…ァあああァん!!」
なに、そこ、すごい気持ちいい……!!
今度は俺から探りにかかる。
と、それに気づいたのかヒミズさんの手にますます力が込められた。
揺さぶられ、先端の硬くて尖った部分にこすり上げられると、前立腺が直接刺激されているようで最高に気持ちいい。
「…ア、…! あァ! …もっ…と、ォ…ッ!」
最初からわかっていたのだろうか。俺自身気づいていなかった、俺の中の、最高に盛り上がれる場所。
さすが俺の先生…歓待 の熟練者 …!
「アッ!アッ!アッ!アッ!」
ヒミズさんが俺を揺さぶる度に繋がったところからぐじゅぐじゅと音がする。俺の先走りが流れ落ちて、すりこまれているんだ。たぶん、ヒミズさんも、また…
振り切れそうな快楽に溺れたままヒミズさんを見下ろした。
案外すぐ近くにいた。ドアにもたれかけて、目を閉じ、荒い息を吐いている。
目を閉じてる。いいぞ…ばれない。
俺が、快楽に酔いしれた、酷く淫らな笑顔を浮かべていることに、気づいてない。
「――ハァッ!」
「ああん!」
ヒミズさんは突然目を閉じたまま俺の背中を抱き寄せた。根元まで一気に押し上げられて悲鳴が上がる。
ヒミズさんは俺の胸に顔をうずめ、舌で俺の突起を探り始めた。
どくん、どくんとヒミズさんの屹立が俺の中で脈打っている。
俺の突起を探り当てると、ヒミズさんは一度大きく口を開いて、俺の左胸に歯を立てた。
「あく、ぅッ」
甘噛みされた程度の痛みだったけど俺の体はおおいに反応した。
やがて範囲が狭まり、突起を強く挟まれる。
「あん…あッ!」
右の突起を指先できつく摘まれた。
――どくん、どくん
脈を打っているのは、俺だ。
脈を打つたび腰が跳ねあがり、胸に与えられる刺激が電流のように体じゅうを駆け回って、中心にある欲望のるつぼに激しく響く。
2つの突起を攻めたてられ、意識が白くなっていく。
「…あ… あ…も、…だ…めヒミズ… …おれ… …も、…いく……」
叫んでいるつもりなのに、吐息の隙間からはうわ言のようなか細いささやき声しか出ない。
「…ふ…ぅん…ッ」
ヒミズさんの声が鼓膜にトロリと流れ込む。
ヒミズさんの歯が突起から離れ、両腕に強く抱き寄せられる。
体内にあるヒミズさんのそこがぼこぼこと何かを噴出しようとしているのがわかった。
――いく…
――ヒミズさんと一緒に…
――いく…
――いく…
――いく…ッ!
「あ、ッ!! … … … !!」
背中が激しく反り返って、中心がびん、と跳ねあがって、熱狂した快楽の証が俺の胸に向かってすごい勢いで駆け上がった。
そして、俺の体内も、あたたかな愛液で満たされる。
俺がその瞬間なんと叫んだのかは定かじゃなかったけど、ヒミズさんに熱く名前を呼んでもらえてうれしかった。
「…―…ッは…」
自分の呼吸する音で意識が引き戻される。
気付くとヒミズさんの胸にもたれるようにして、体が完全にのびていた。
「…ハッ、ハッ、ハッ…」
ヒミズさんも息、荒い。
ヒミズさんはまだ俺の中にいて、俺は胸で感じるヒミズさんの汗ばんだ肌と、体内にあるヒミズさんの塊とに酔いしれて、動けなかった。いや、動きたくなかった。
体の中にいるヒミズさんからは徐々に力が抜けつつあって、そこは柔らかくなり始めていた。
ぼんやりとした頭で、でもそのすべてを俺は、なんとかして克明に感じ取っていたかった。
ヒミズさんが動いて、コンソールを開ける音がした。
白いものが脱力した視界の端に映って、どうやらタオルみたいだ。
ヒミズさんは俺を優しく傾けてシートの上に寝かせてくれた。シートには大きなタオルが敷いてある。
ヒミズさんがそっと俺から抜け出ていく。食い止めたかったけど何もできないままでいて、俺はそれが少し悔しいと思った。
それからヒミズさんは丁寧に俺の後処理をしてくれて(アルコールを少し混ぜたミネラルウォーターを出してきたとき、なぜか俺はイズミさんを思い出した)、脱ぎ散らかした俺の服を傾斜した助手席のシートの上に乗せた。
ヒミズさんはシートの隅にちょこんと座り、乱れた自分の衣服を整えながら俺に言った。
「春川、動けますか?」
俺が視線をとろんと動かすと、ヒミズさんは俺を見ずにつづけた。
「このモールに隣接したホテルに部屋を取ってあります。そこで少し横になっていてください。買い出しには私がひとりで行きます。着替えも調達しますので、部屋着に着替えて待っていてください。」
……えー…。
このひと、なんでこんな冷静なの…
というか、ここまで全部計算しきってたってこと?俺がこうなることも予測済みだったってこと…?
(…やっぱり、超怖 ええこのひと…)
でも…、…
「……すきです…ヒミズさん…」
俺が言うと、ヒミズさんの耳がバッと赤くなった。
言われた通りホテルのベッドでゴロゴロして体力が回復するのを待ちながら、ヒミズさんの底知れない計算力や、セックスの強さや、体の美しさとか、いろいろ考えた。
あのひとは、ちょっと本気になっただけで、やっぱりやばいくらいにすごいひとだ。
たぶん俺なんかは一生かなわない…けど、そんなひとを組み敷いて、ちょっとだけ支配できた俺も、けっこう…すごいんじゃないか?
…なんて。
「ふふ」
少しだけ笑ってみたりした。
空はよく晴れていて、窓の向こうの景色は最高で、俺は今日、店長たちがたぶん知らないヒミズさんの、雄々しくて野性的で、そして愛らしい一面を垣間見た。
そうだ、ケーキ。
ケーキ作るんだった…うごけるかな…おれ…
意識がとろとろと流れ、青空を眺めながら、俺は少しだけ眠った。
幸せな、少しだけ早い、…ハルの眠り。
「続 2月14日」END
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