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第2話

 じっとりとした全身の汗が気持ち悪い。  すかさずシャワーを浴びるも、何とも不快な気持ちは治まらずに、時間が経つにつれて不安へと変わっていった。  堪らずに携帯を手に取り、遼二に宛ててメッセージを打つ。  *  おはよ  何してる?  今から家来ねえ?  *  打っては消し、また新たに打ち直す。だが、どれも違う気がする。  いつもは気軽に送っていた言葉が今日は全くままならない。何を話していいのか、何を伝えたいのか、それすら思い浮かばないのだ。 「何やってんだ、俺……」  重いため息を落としたその時だった。手にしていた携帯が震え、着信を告げる。慌てて手中から落としそうになり、持ち直した画面には『鐘崎遼二』という表示――それを目にした瞬間、ドキリと胸が震えた。 『紫月? まだ寝てたか?』  彼の声はいつもと変わらない、普段の遼二そのものだ。  咄嗟にはどう応答していいのか戸惑って、思わず声がうわずってしまいそうになった。 「寝てねえよ……とっくに起きてる」  そう返すのが精一杯。それを聞くと、受話器の向こうの彼が嬉しそうに笑ったのが分かった。  遼二の用件は、彼の母親がチェリーパイを焼いたから、それを届けに行ってもいいかというものだった。  嬉しい反面、何とも言いようのない気持ちが僅かに胸を締め付ける。夢の中に出てきた女を思い浮かべると癪な気持ちがこみ上げて、紫月はわざと露出度の高い服をクローゼットから選んで取った。 ◇    ◇    ◇  それから三十分もしない内に遼二がチェリーパイを片手にやって来た。 「随分静かだな? 今日は道場の稽古、休みなのか?」  紫月の父親は道場を開いていて、土日祝日ともなれば普段は通いの子供たちで賑やかしい。紫月の部屋は道場がある母屋とは別棟の離れにあるから煩わしさはないものの、それでも稽古の声だけは聞こえてくるのが通常なのだ。  それが今日は静まり返っていることを不思議に思ったのか、 「親父さんたち出掛けてんのか?」  パイを差し出しながら遼二が勝手知ったる何とかで、まるで自分の家に上がるように玄関で靴を脱いでいる。その仕草を目にした瞬間に、先程の嫌な夢の残像が脳裏を過ぎった。 ――こいつはこの腕で見知らぬ女を抱いていた。 「どした? お前、今日は何か元気なくね?」  部屋に入るなりそう訊かれ、顔を覗き込むように見つめられて、紫月は複雑な思いに苦笑した。 「……別に」  そう答えるのがやっとだった。  すぐ隣では、わざと選んだ露出度の高い服を遼二がチラ見している――  なあ、こういう格好をしていれば、もしかして俺でなくてもお前は興味を示すのか?  思わずそんなひねくれた言葉がついて出てしまいそうだ。遼二がそんなヤツではないと分かっていても、朝方の夢はどこまでも手痛い感情を突き付けてくる。

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