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第3話
これ以上黙っていれば、何だかどんどん不機嫌になって、目の前の何も知らない彼に八つ当たりをしてしまいそうだ。そう思った紫月は、気持ちのままをぶつけてみることにした。
「さっきさ、嫌な夢を見たんだ。何つーか、それで寝覚めが悪いってかさ……」
「なんだ、怖い夢でも見たのか?」
遼二はクスっと笑うと、
「どうせ連休なんだし、今夜は泊まってやろうか? 一緒に寝れば怖くねえぞ」
まるで女子供をあやすかのように髪を撫でてよこしながら、しかも思考はとんでもなく違う方向にいっている。紫月はまたも苦笑させられた。
「怖い夢っつーかさ……まあ、ある意味コワイ夢ではあったけどな」
「なんだ、それ」
笑う遼二に、
――オマエが女を抱いてる夢を見た。
真顔でそう打ち明ければ、一瞬驚いたようにして瞳を見開き、ポカンと口を開けたままでこちらを見つめた。
しばしの沈黙の後、
「バカだな、お前。もしか俺が浮気するとでも思ったか?」
とびきり穏やかな笑みと共にそう言った。
「浮気って……」
それじゃまるで俺たち恋人同士みたいじゃねえか――言葉にこそできないままで、だが視線でそんなふうに訴えれば、遼二はまたもやわらかに微笑んだ。
「くだらねえ心配いらねえよ。女どころか、男だろうが誰だろうが、俺はお前しか眼中にねんだから」
「……なに……言って……」
「マジだぜ」
言葉通りの真剣な眼差しが射るようにこちらを見つめてくる。じっと――見つめられ過ぎて耐えられなくなるくらいに重ねられた視線をどちらからとも外せない。
大きな掌が包み込むように頬に触れ、そのまま顎先を掴まれたと思ったら、クイと顔を交互するように近付けられて唇に軽いキスが落とされた。
「――する?」
「……え?」
「お前の見た嫌な夢を取っ払ってやるよ」
「……ッ」
いきなり強く抱き寄せられて、今度は濃厚極まりない口づけの嵐だ。今の今までの穏やかでやさしい視線はもうどこにもなく、激しい雄の欲情をまとった男が自らを抱き締める。
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