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俺の会社は外資系であり、社風が緩くかなり自由である。 隣に座る入社一年目のまだ学生な雰囲気が残るふわふわヘアーの事務職の女の子だって、少し明るすぎるぐらいの髪色で赤い口紅だとて悪目立ちはしない。 「凛ちゃんさん、中津さんと仲が良いですよねっ」 「…」 そして、ピカピカの一年生にまで凛ちゃんさんと呼ばれる俺。 "さん"は付いているが。 威厳が無さすぎて泣ける。 「中津さん、カッコいいですよね~~」 「だってうちの看板営業マンだもの」 新入社員と話す、睫毛がバサバサ、ネイルもコロコロ変わる俺と同期なベテランの女の子(あえて女の子と呼ぶ、怒られるので)の間で噂の中津さんとは、もちろんアイツ。 「英語もペラペラだし~~」 俺も一応この会社に勤めていますのでそれなり話せますが、なにか。 「なにより、ゆーちんはスタイルと顔だよねー」 「ですよね~~名前も中津・ウィルソン・悠真なんてカッコいいの極み!!」 ミドルネームってズルくない?! 名刺出しただけで顧客の心掴めるトークに持っていけるんだからね、得すぎる!! 「なぁに、俺の噂?」 出た!!どこでも現れるイケメン男!!! いつの間にか外出から帰ってきたヤツが、ニコニコと現れた。 「ゆーちん、やったね、カッコいいって。若い子にモテモテじゃん」 「わーい、嬉しーい♡」 アラサー男の発言ではないが、万人に許されるのが中津・ウィルソン・悠真である。 「でもごめんね、俺、凛ちゃんに夢中だからっっ」 両手を手の前に合わせて申し訳なさそうに彼女たちを交互に見る。その距離も近い。 この間課長が近寄ってきたときは、話しながら一歩ずつ後退してたの、見てたんだからな俺は。 「またそれー」 「溺愛してんのっ」 「はいはーい」 「ねーっ、凛ちゃんっ」 急に俺に振られても。 (やめて欲しい…) 無言でキーボードを叩いて、今見なくてもいいメールを開いた。 黙って聞いていれば、本人の前でベラベラと話すゆーちんのセクハラ発言に、 イケメンの戯れ言だと誰しもが思っている。 仕事はめちゃめちゃ大変だけれど充実していて順調、会社に不満も無く、やる気に満ち溢れているというのに、ゆーちんに腹が立つのだけはどうにもならない。

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