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世間は夏。
学生は夏休みのようで、いつもの通勤ラッシュ時間は多少軽減されたようには見えるものの、社会人にとっては大した違いはない。
(あっち、)
クールビズとはいえ、纏りつく湿気に汗が滲む。
あまり効かない弱冷車両に乗ってしまったのが運の尽き。
気を紛らわそうと、耳元で流れる音楽の音量を少しだけ大きくした。
目の前のカップルは涼しげに浴衣に団扇、ではなく、携帯式の扇風機で代わる代わる風を送っていて、何なんだよ、団扇で扇ぐのですらめんどくさいのかよ、と愚痴しか出ない。
不意に、肩をポンポンと叩かれた。
「ヘーイ!!りーんちゃあーん♡♡」
「…ヘイ」
「あっれ、元気無いの??」
「バイブス爆上がり~~」
「ナニソレ、めちゃくちゃ面白い」
真顔で返されたら、恥ずいじゃんか。
ゴソゴソ動いてちゃっかり俺の隣に並んだ。
「……ゆーちんさ、」
「うん」
「暑くねえの?」
上からしたまでキッチリ着こなしているゆーちんの佇まいは、暑さを微塵も感じさせないし、表情も涼しげだから不思議だ。
「あちい」
「だよね」
「こういう日はビール飲みたい」
「プライベートでは飲まないんだろ」
「飲みたい」
「ふーん」
「こんな日のためにビール、冷やしてる」
「ふーん」
「…」
「…なに?」
俺は、急に黙ったゆーちんの少し視線の高い位置にある顔をちらりと見上げた。
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