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第5話 ちょっとした疑問

 保が去って行ってから、しばらくして、ようやく一人の部員が口を開いた。 「はー、度胆抜かれたー。めっちゃ綺麗な男の子だったなー」 「言えてる言えてるー。入ってきた瞬間、えっ? って思ったもん。女子陸上部と間違えたんじゃね? ってさぁ」  一人が話し出すと次から次へと、みなが口々に参加し始める。 「芸能界でも通用しそうな感じだったよな」 「そこらの芸能人よりかわいいんじゃね? いるんだなー、世の中にはあんな男も」 「でも、橘は、全然普通に接していたよな?」 「え?」  いきなり話を振られて、橘は少し戸惑った。 「びっくりしなかった? 突然あんなに綺麗な子が入ってきてさ」 「……あー、うん。まあ。でも、男の子だし」  自分はすでに昨日に保を見ていると、言いそびれて、橘は曖昧に言葉を濁した。 「橘とはまた違うタイプの美形だよな。おまえはかっこいい、さっきの子はかわいいって感じ?」 「あの子が入部したら、陸上部の顔面偏差値がまたあがるぞ」 「だな。橘と二人いれば、もうこわいものなしだ」  周りの部員たちが盛り上がっている中、橘はふと気づいた。  そういえば、あの子……、どうしてオレの名前、知ってるんだろう?  名乗った覚えはないし、あの子のほうは、オレとは初対面のはずなのに。 『あの、保って、呼んでください。橘先輩』  はて? と橘は首を傾げた。  翌日の放課後。  保はさっそく必要事項を書いた入部希望用紙を持って、部室へやって来て、晴れて陸上部の一員となった。  自己紹介のあと、 「練習に参加するのはいつからでもいいよ。なんなら二、三日はどんな活動しているか見学しててもいいし」  部長は保へそう言った。  しかし、保はやる気に満ち溢れている様子で、小さなウサギのマスコットがぶらさがっているスポーツバッグから、真新しい体操着を取り出した。    

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