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第6話 初めての部活動

「今日から参加させてくださいっ。体操着も持ってきましたし」  保は緊張しながらも、そう強く主張した。  橘はそんな彼を少々不思議な気持ちで見つめていた。  高校生活が始まって、入学式を入れて、まだ三日目。授業が始まったのは今日からだ。  体操着の真新しさから言って、まだ体育の授業さえ受けていないように思える。  いったいこのはりきりようは、なんなのだろう?  今のところ、新入部員は保だけなので、二人一組になって行う柔軟体操は、橘が彼と組むことになった。 「あの、よろしくお願いしますっ。橘先輩」  保は昨日と同じく深々とお辞儀をする。  ずいぶん緊張しているので、 「そんなに緊張しないで、もっと気楽にしたらいいよ、浜下」  橘がそう声をかけると、 「は、はい。……あの、橘先輩、僕のことは、保でいいですから……」  昨日と同じくそんなことを言ってきた。 「分かった。……じゃ、保」 「はい」 「あのさ、オレ、一つ聞きたいことがあるんだけど」  柔軟体操を始めながら問う。 「なんですか?」 「保さ、なんで、オレの名前、知ってるの?」  華奢な背中を押しながら問いかけると、保が一瞬絶句して、体が緊張で強張るのが伝わってきた。  そして、刹那の沈黙のあと、消え入りそうな声で答える。 「ずっと憧れていましたから……」  ……ずっと憧れて?  でもオレと保が会ったのは、昨日が初めてのはずなんだけど。  入学式の日に窓から見ていたことは知らないだろうし。  ここまで綺麗な子と過去に会ってたら、記憶から抜け落ちるはずもないし。  橘はもう少し詳しいことを聞きたかったのだが、保は顔を真っ赤にしており、これ以上突っ込んだことを聞くと、体操中に心臓が止まりそうにさえ見えたので、やめておいた。

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