6 / 55
第6話 初めての部活動
「今日から参加させてくださいっ。体操着も持ってきましたし」
保は緊張しながらも、そう強く主張した。
橘はそんな彼を少々不思議な気持ちで見つめていた。
高校生活が始まって、入学式を入れて、まだ三日目。授業が始まったのは今日からだ。
体操着の真新しさから言って、まだ体育の授業さえ受けていないように思える。
いったいこのはりきりようは、なんなのだろう?
今のところ、新入部員は保だけなので、二人一組になって行う柔軟体操は、橘が彼と組むことになった。
「あの、よろしくお願いしますっ。橘先輩」
保は昨日と同じく深々とお辞儀をする。
ずいぶん緊張しているので、
「そんなに緊張しないで、もっと気楽にしたらいいよ、浜下」
橘がそう声をかけると、
「は、はい。……あの、橘先輩、僕のことは、保でいいですから……」
昨日と同じくそんなことを言ってきた。
「分かった。……じゃ、保」
「はい」
「あのさ、オレ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
柔軟体操を始めながら問う。
「なんですか?」
「保さ、なんで、オレの名前、知ってるの?」
華奢な背中を押しながら問いかけると、保が一瞬絶句して、体が緊張で強張るのが伝わってきた。
そして、刹那の沈黙のあと、消え入りそうな声で答える。
「ずっと憧れていましたから……」
……ずっと憧れて?
でもオレと保が会ったのは、昨日が初めてのはずなんだけど。
入学式の日に窓から見ていたことは知らないだろうし。
ここまで綺麗な子と過去に会ってたら、記憶から抜け落ちるはずもないし。
橘はもう少し詳しいことを聞きたかったのだが、保は顔を真っ赤にしており、これ以上突っ込んだことを聞くと、体操中に心臓が止まりそうにさえ見えたので、やめておいた。
ともだちにシェアしよう!