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第7話 かわいさがとまらない

 保は礼儀正しく、素直な少年だった。  誰の目をも惹きつける容姿をしているのに、どこか遠慮がちなところも好感が持てる。  そして、保は陸上部の部員の中で、特に橘に懐いていた。  最終的な新入部員の数が奇数だったこともあり、二人一組でする柔軟体操は、最初の日から変わらず、ずっと橘と保がいっしょだった。  他の部員たちも、 「保は橘が面倒見てやれ。おまえらが並んで立っていると、いい目の保養になるわ」  などと、冗談なのか本気なのか分からないことを言う。  橘にしても、当然のことながら自分を慕ってくれる後輩はかわいいし、それが保ほどの愛くるしい少年となれば、その気持ちも何倍、何十倍増しである。  橘は一人っ子だから、弟ができたような気持ちもしている。それもとびきりかわいくて素直で、猫かわいがりにかわいがりたいような……。  朝ヶ丘高校は、あまりクラブ活動に力を入れていない。  なので、陸上部も体育会系の厳しさとは無縁のゆるいクラブだ。無断で休んだからといって、怒られることもない。  橘も去年はよくさぼったものだった。  けれど、今年は違う。部活動が始まって、二カ月が過ぎたが、橘は毎日真面目に顔を出している。 「橘先輩、こんにちわー」  まさしく天使のごとく笑みとともに、保が挨拶してくれるからだ。  悪友たちの遊びの誘いを断り、付き合いが悪いとさんざん罵られても、橘の足は部活へと向かう。  かわいい後輩である保に会うために。

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