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第8話 拗ねた顔に萌え

 陸上部では部員が集まると、まず柔軟体操を念入りにする。  そのあと、それぞれ学年別の練習メニューに移る。  今日は、二年生は短距離のタイム測定、一年生は持久走だった。  保は綺麗な額に汗を浮かべて、一所懸命にグランドを走っている。  その保の姿を時々、盗み見しつつ、橘が二度目のタイムを計り終えたとき、クラスメートのバスケットボール部員がやってきた。 「橘、今から紅白試合すんだけど、メンバーが一人足りねーんだわ。助っ人頼むよ」 「分かった。……部長ー、バスケット部の助っ人頼まれたんで行ってきます」 「おー、分かった、がんばれよー」  橘は、運動は全般的に得意なほうなので、時々、他のクラブから試合のときの助っ人を頼まれる。  こういうところにも、クラブ活動にゆるい校風が表れていると言えた。  グランドを横切って、持久走を終えてへたばっている保の傍へ行き、頭をポンポンとしてやった。 「よくがんばって走ったな、えらいぞ。保」 「橘先輩、ありがとうー。時々先輩が見てたから、僕、がんばれました」  ……盗み見してたことバレてたか。  橘が少々照れくさい気持ちでいると、保が聞いてきた。 「先輩、もうタイム計り終ったんですか? どこへ行くんですか?」 「ああ、体育館。バスケ部の試合の助っ人頼まれたんだ」 「え? 橘先輩って、バスケも得意なんですか? すごい……」  大きな目を眩しそうに細めて、橘を見つめる。  保は感情の表し方が素直で、橘のほうが気恥ずかしくなってしまう。 「単なる紅白試合に呼ばれただけだよ。保のほうこそオレが見ていないからって、さぼるなよ?」 「僕、さぼったりしませんー」  少し拗ねたような顔をする保。  その表情がかわいくて、橘はなんだかクラッと来てしまった。  それをごまかすように、保の柔らかな髪をクシャクシャッと乱してから、橘は体育館へと向かった。

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