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第9話 スイート・クラブルーム

 助っ人としてバスケ部の紅白試合に参加し、クラスメートとしばらく談笑してから、橘が体育館を出ると、もう外は夜の闇がすぐ傍までやって来ていた。  陸上部も他の運動部も、とっくに活動を終えて、グランドはガランとしている。 「ちょっとバスケ部に長居しすぎたかな」  小さく呟きつつ、校舎の中へ入り、部室のドアを開けると、 「えっ? 保?」  制服に着替えた保が椅子に座って、本を読んでいた。 「おかえりなさい、橘先輩」  保は橘を見ると顔をほころばせた。 「ただいま……って、おまえまだいたのか? もう外暗いぞ。……あ、そうか、鍵」  部活を終えたあと、鍵を閉めて職員室へ返しに行くのは、基本的には一年生の仕事となっている。  実際には学年関係なく最後まで残っていた者が、その役目を担うのだが、真面目な保は、橘の帰りを待っていたのだろう。 「ああ、ごめん、保。鍵は置いて帰ってくれて良かったのに。二年生を待ってる必要はないんだよ」  橘が謝ると、保はきょとんとした顔をしたあと、いきおいよくかぶりを振った。 「あ、いえ。違うんです。部長も他の先輩の人たちも、鍵置いて帰っていいよって、言ってくださったんですけど、……僕が勝手に橘先輩を待っていたんです」 「え? オレを待ってた? なにか用事でもあった?」 「特に用事ってわけじゃないんですけど……、あの、橘先輩と、もっと話したいなって……」  最後のほうの言葉は消え入りそうになっていき、真っ赤になってうつむいてしまった。  相手は同性だというのに、なんだか妙な雰囲気になってしまって、橘のほうまで、なんだか、赤面してしまいそうだ。 「そ、そう。でも一人で待ってるの、退屈だっただろ」  照れ隠しにそんな話題を振ってみると、 「いえ、本読んでました……」  はにかんだ笑みとともにそんな答が返ってきた。

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