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第10話 二人で帰る道で……
「本、読んでました」
「へえ? なんの本?」
橘は保の傍に行くと、彼の肩越しに手元を覗き込んだ。
保の髪からフワリとシャンプーのいい香りがして、なぜか胸がとくん……と音を立てる。
橘は戸惑う自分の気持ちにふたをして、保が持っている本を手にした。
「あー、ホラーミステリー。保、こういうジャンルの小説好きなんだ。同じだな。オレもこの作家さん、好きで全部、本持ってるよ」
橘が言うと、保は大きな瞳を輝かせた。
「橘先輩もこの作家さん好きなんですかー。うれしいなー。先輩とお揃いだー」
「お揃いって……」
保の表現の仕方がおかしい。
「でも先輩、この作家さんの本、全部持っているんですか? いいなー。僕も探しているんですけど、初期の頃の作品は絶版になってるものも多いんですよね……」
「貸そうか?」
「いいんですか?」
「勿論。さっそく明日二、三冊持ってきてやるよ」
「ありがとうございますっ」
保が力いっぱいお辞儀したとき、下校を促すメロディが流れ出した。
「わっ、もう八時じゃん。早く着替えて帰らなきゃ」
「橘先輩、駅まで一緒に帰っていいですか……?」
「ああ。とっとと着替えてしまうから、待ってて」
「はいっ」
十五分後、二人は肩を並べて、駅までの道を歩いていた。
保は、長身の橘より十センチ近く背が低いので、橘が彼を見下ろす形になる。
つむじがかわいい小さな頭も、華奢な肩も、壊れてしまいそうなほど儚い印象を与えて、守ってあげたいと思ってしまう。
同性にこんな気持ちを抱いたのは勿論初めてのことだ。
ふと、橘の視線が保の持っているスポーツバッグを捕らえる。
黒いスポーツバッグに、よく目立つ、小さなウサギのマスコットが揺れている。
マスコットは手作りのようで、少々縫い目が揃っていなかった。
いつからだろう? このマスコットを見ると、胸に小さな痛みを感じてしまうようになったのは……。
橘は、そんなふうに思った。
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