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第12話 後輩は元手芸部員

「手芸部?」  思わず橘は聞き返した。  男が手芸をしてはいけないとは思わないし、そういう才能がある男もごまんといるだろう。  けれど、陸上部での真面目さや、始業式の日に、一番に入部希望に来たことからも、保は中学生のときも陸上部だったと思い込んでいたのだ。  橘の驚きぶりがおかしいのか、保はクスとかわいい笑みを漏らす。 「実はね、手芸部が一番活動時間が少ないから、入ったんです」  視線を自分が作ったというマスコットへ投じながら、続ける。 「僕、中学に入学したとき、クラブには入りたくなかったんです。帰宅部っていうのが一番の望みで。だって、放課後は自由に過ごしたいじゃないですか。でもクラブには絶対入らなくちゃいけなくて。色々考えた結果、手芸部にしたんです」 「でも、文芸部とかも活動少なそうじゃないか? 好きな小説も読めるし」 「はい。最後まで候補に残ったのが文芸部と手芸部で。でも文芸部は、純文学系の本が多くて、僕の好きなホラーやミステリーってあまりなくって」 「それで手芸部に?」 「そうです。手芸部って一カ月に一回、被服室に集まって、三十分ほどのミーティングをするだけで、あとは完全なフリー。だからうちの中学って手芸部員、多かったんですよ。勿論男も僕だけじゃなかったし」 「手芸部イコール帰宅部って感じだったんだ?」  橘が言うと、保は大きくうなずいた。 「そうです。でも、そんな手芸部でしたけど、一年に一度、文化祭には一人最低でも一つは作品を作って、展示しなきゃいけなくって。僕が一年生の時に初めて作った作品が、このウサギで」  そう言うと、スポーツバッグを掲げてみせる。 「生まれて初めて作った作品だから、愛着が湧いて、ずっとつけているんです」 「二年と三年のときの文化祭には、なに作ったの?」 「三年は受験があるから、免除されて。二年生のときにはこのウサギの色違いを作ったんですけど、文化祭の最終日にはどこかへ行ってしまってて」 「じゃ、保のもとにあるお手製マスコットはこいつだけなんだ?」  現金なもので真実が分かると、橘はにわかにマスコットのウサギがかわいく思えてきた。

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