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第13話 疑問への答
手作りのマスコット人形に対して感じていた小さな心の痛みが、霧散してくれたとき、ふと、橘の頭に新しい疑問が生じた。
「あれ? でも保、じゃどうしておまえ、高校では陸上部に入ったんだ? いくらゆるいクラブだからって、帰宅部ほど自由じゃないだろ」
「え……あ……、それは、だから……」
保が急に真っ赤になる。
「ずっと橘先輩に憧れていたから……」
その答は、もう一つの疑問を橘に思い出させた。
「そうだ。ずっと聞きたかったんだよ。保、おまえオレの名前、いつ知ったんだ? 部室で初めて話す前に、会ったこととか、あったっけ?」
「あ、いえ。……会ったことは、ないです。でも僕のほうは橘先輩のこと知っていました」
「えっ……?」
保はなにかをふっきるように顔を上げると、真っ直ぐに橘のことを見つめてきた。
ぱっちりとした愛くるしい瞳は、今、強い光を宿し、彼の内側にある芯の強さを表していた。
もう駅はすぐそこだったが、彼の話を聞くまでは気になって帰れない。
二人はどちらからともなく、真っ直ぐに続く駅への道を逸れ、人通りのあまりない路地へと入った。
路地の突き当りで止まると、保はおもむろに話し出した。
「去年の夏、僕は受験する予定だった高校の見学へ行ったんです。ここから三つ離れた駅にあるK高校です。そのとき、ちょうど朝ヶ丘高校の陸上部が合同練習に来ていて、橘先輩のことを知ったんです」
「確かにK高にはよく合同練習へ行くけど……」
「そのときに先輩の走っている姿を見て、なんてかっこいい人なんだろうって思って、ずっと憧れてました」
悲壮なまでのまなざしで、保は橘を見つめてくる。
鼓動が速くなり、橘は彼を抱きしめたい衝動に駆られたが、
「ありがとう。そんなふうに保に憧れてもらえてたなんて、光栄だよ」
そんなふうにやんわりとかわすことで衝動を抑える。
と、突然、保が橘の制服のシャツをつかんできた。
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