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第14話 突然の告白
「橘先輩、僕、先輩が好きです……」
保は橘のシャツをギュッと握りしめたまま、告白してきた。
橘には保の言葉の真意はすぐに分かった。
シャツをつかむ保の手が小さく震えていることが、これ以上はないくらい真剣な表情が、薔薇色に上気した頬が、彼の気持ちを雄弁に語っていたから。
なのに、橘の口から出たのは、
「ありがとう、オレも保が好きだよ。かわいい後輩だからね」
情けないことに、そんな中途半端な言葉だった。
パニックに陥ってしまったのだ。とても綺麗な子だとはいえ、同性に告白されて。
そして告白されたことによって、半ば気づいてしまった自分の気持ちにも、橘はただ、戸惑っていて……。
だが、保は引き下がらなかった。
「違いますっ……! 僕は……僕は、橘先輩に恋してるんです」
いっそ睨みつけるようなきついまなざしで、保は橘へ恋慕の思いを告白してきた。
「保……」
保はシャツを握っていた手を離すと、ふわりと橘に抱きつき、もう一度繰り返した。
「好きです、橘先輩……、恋してるんです、先輩に」
そして体を離すと、
「今日はこれで帰ります。……返事はいつでも、どんなものでも、覚悟はしてますから」
くるりと体を翻して、路地を走って行ってしまった。
一人残された形になった橘は、自分のふがいなさに唇を噛みしめていた。
保に好きだと言われて、本当の意味に気づいていながら、逃げて。
でも、保はそれでも思いをはっきり伝えてきた。
……オレなんかより、保のほうが全然男らしいじゃん……。
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