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第15話 後輩の思い
一方、保は駅までの道を全速力で走っていた。
少しでも止まろうものなら、脚がガクガクと震え、きっと立っていられなくなる。
心臓が口から飛び出そうという言葉を身をもって体験しながら、改札を抜け、ホームまでの階段を上り、ちょうど入ってきた電車に飛び乗った。
保が自分の告白を振り返る時間を得たのは、ラッシュが過ぎ、ガラガラの電車の空席に腰を落ち着けたときだった。
……告白してしまった、橘先輩に……、それもあんな突然に……。
先輩、戸惑っていたな、当然だけど。
保は、告白したことは後悔していない。……ただ、橘先輩を困らせてしまったことに対しては、胸を痛めていた。
同性に告白されたら、普通は困惑するよね……。それに橘先輩にとっては本当にいきなりの告白だっただろうから。
僕は去年の夏に初めて先輩を見て、一目惚れしてから、ずっと先輩への思いを大切に温め続けて……。ようやく出会えて、言葉を交わすようになって、もっともっと好きになって。
今、先輩に彼女らしき存在がいないのを知っているから、絶対に近いうちに気持ちは伝えるつもりだった。彼女がいる人に告白するのは、やっぱり躊躇いが生まれるだろうから。
そう、告白するチャンスを狙っていたようなところはあった、と保は自覚していた。
まさか今日、あんなに唐突に告白するとは思ってもいなかったけど……。
でも、二人きりになれて、ああいう話になって、どうしても気持ちを伝えたくなったんだ。
保はもともとの性格は、それほど積極的なほうではない。
けれどいったん思い込んだら一途に一直線という面を持っていた。今日、その面が強く前に出てしまったらしい。
保は膝の上にスポーツバッグを乗せ、自作のウサギのマスコットを撫でながら、思案にふける。
あんまり考えたくはないけど、フラれたときのことも考えとかなきゃね。
フラれて泣いちゃうなんて醜態は、見せたくないから。きちんと考えとかなきゃ。
っていうか、フラれる可能性のが高いのかな、やっぱり。
……そうなんだろうな、だって男同士って普通じゃないもん……。
同性愛、ホモ、ゲイ、マイノリティ……、どの言葉にもマイナスの響きを感じ取ってしまうのは、しかたないことだろう。
橘先輩は、冷たげな美形だけど、性格はとてもやさしいから、あからさまな嫌悪を見せることはないと思う。
フラれても、先輩、後輩の絆だけは切りたくなかった。
頑張って頑張ってあきらめるから、少し距離を置かれることくらいは覚悟しているから。
保は自分の目に涙が滲んでいることに気が付いて、慌てて手の甲で拭う。
大好きな大好きな先輩……。
万が一にでも思いが通じたら、どんなに幸せだろうか……。
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