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第17話 楽しい思いつき

 橘先輩が走っている姿は、本当にとてもかっこいい。  スタイルがいいせいもあってフォームがとても綺麗だし、髪が風になびくさまも、ちらりとのぞくピアスもかっこいい。  まさに風を切って走るという形容がぴったり当てはまる。  でも保が一番好きなのは、ゴールだけを見据えている、瞳の真っ直ぐさだった。  僕も早くあんなふうに走れるようになりたい。  体力をつけるための一年生の必須練習である持久走に取り組みながら、保はいつも橘をこっそり盗み見る。  ……でも、そのためにはもっと持久力つけなきゃね。  あーあ。こんなことなら、中学の頃も陸上しておけば良かったかな。  朝ヶ丘高校では陸上部に入るって決めていたから、受験勉強の合間を縫ってジョギングとかはしてたんだけどな……。もともと体力ないほうだから……。  ゼイゼイと息をつぎながら、つらつらと考えているとき、ふと保の頭に、ある思いつきが浮かんだ。  その日、帰宅した保は、自室の机の上に橘が貸してくれた本を置き、愛しげにそれを撫でてから、 「さて」  と、クローゼットを振り返った。 「確か、この奥にしまってあったと思うんだけど……あった!」  保がクローゼットの奥から取り出したのは、青いプラスチックの箱だった。  箱の中には、中学時代、手芸部の作品を作ったときの道具一式が入っていた。  針と糸、糸きりハサミは勿論、ウサギのマスコットの型紙、材料のフエルトも入っている。  これも思い出になるかも、と残しておいてよかった……。あとは綿と紐を買えばいいだけだな。  保は、スポーツバッグにぶら下がっているウサギのマスコットへ視線を移した。  橘はマスコットを見て、「残っているのはこいつだけなんだな」って言った。  だから、同じマスコットを作って、本を貸してくれたお礼という口実で、彼に贈るつもりだった。  そしたら、僕と先輩、お揃いのマスコット、持っていることになる……。  そんなふうに想像しただけで、幸せな気持ちになる保だった。

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