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第18話 伝えられない理由
学食での昼休み。
橘が食べ終わったトレイを返していると、保が走ってやって来た。
「橘先輩、小説ありがとうございました。おもしろかったですっ! とっても」
そう早口で言うと、紙袋を橘に渡して、再びすごいスピードで走り去ってしまった。
普段、学校で、橘と保が顔を合わすのは部活くらいである。
一年生と二年生では教室のあるフロアが違うし、保は学食を利用しないようで、今まで見かけたことはなかった。
ここ数日、雨が続いて、部活が休みだから、保は学食で橘が来るのを待ち、一人になったところで、本を返しに来たのだろう。
彼の健気さに胸が痛んだ。
痛みの原因は罪悪感だった。橘は保から告白されてから、まだ返事をしていなかった。
あれからもう二週間以上が経つというのに。
部活ではなにもなかったかのような顔をして、接し続けていた。それがどれだけ保にとっては辛いことか分かっていながら。
橘は自分の気持ちにとうに気づいてはいた。
そう、自分もまた保に恋愛感情を抱いていることに。
……保は橘の返事を待っている。たとえどんな返事でも覚悟はできているから、と。
だから今の橘のような中途半端な態度は、一番彼にとってはもどかしく苦しいことだろう。
それでも保は橘にかわいい笑顔を向けてくれる。
橘が保に、思いを伝えられないのは、こわいからだった。
男同士で恋愛関係になることへの禁忌の気持ちは乗り越えた。
好きだという思いは、どんなに抑えようとしても抑えられるものではないし、理屈でどうこうできるものでもない。
だから、橘がこわいのは、保に気持ちを伝え、付き合うことになったとき、思いが暴走してしまいそうな自分自身だった。
保のことはすごく愛しく、大切に思っているが、そんな甘く優しい気持ちの中に、雄としての欲望も当然だがあって……。
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