19 / 55

第19話 ウサギのマスコット

 保のことを大切に思うからこそ、橘は考えてしまう。  彼は橘を好きだと言ってくれたけれど、その思いが叶った先にある行為について、どれだけ分かっているのだろうか、と。  恋人同士になったら、必ずするだろう行為……キスから始まり、やがて体を重ねることについて……。  勿論、保だって今時の高校生だから、当たり前のように知識はあるとは思う。  男同士での行為についても、情報過多の時代、耳に入ってきていることだろう。  ただ、知識としては知っていても、自分がそれをするというところにまで、気持ちが追いついているのか……?  保の笑顔はいつも無邪気で、彼のまなざしは真っ直ぐすぎるから、こわくなる。  好きだと伝えてしまえば、オレは思いを抑えきれなくて……、あいつを傷つけてしまうことになるんじゃないか――。  その夜、保から返してもらった小説を本棚に戻そうとしたとき、紙袋の隅に、遠慮がちに小さな青い袋が入っているのに気が付いた。 「……?」  開けてみると、そこには小さなウサギのマスコットが入っていた。  ……これ……、保の鞄についているのと同じウサギ?  小さな袋の中にはメモも同封されていた。 〈小説のお礼です。 保〉 「保……」  なんてかわいいことをするんだろう……。  作りたてのウサギは保の鞄のものより、色が鮮やかで、でも確かに彼のものと同じウサギで。  ペアだな、なんて思い、柄にもなく照れてしまう。  もうダメだ、と思った。もうこれ以上、好きだという気持ちを抑えていることはできない。  今度二人きりになったとき、自分の正直な気持ちを彼に伝えよう。  保を欲しいと願う雄が自分の中にいることも含めて……。

ともだちにシェアしよう!