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第19話 ウサギのマスコット
保のことを大切に思うからこそ、橘は考えてしまう。
彼は橘を好きだと言ってくれたけれど、その思いが叶った先にある行為について、どれだけ分かっているのだろうか、と。
恋人同士になったら、必ずするだろう行為……キスから始まり、やがて体を重ねることについて……。
勿論、保だって今時の高校生だから、当たり前のように知識はあるとは思う。
男同士での行為についても、情報過多の時代、耳に入ってきていることだろう。
ただ、知識としては知っていても、自分がそれをするというところにまで、気持ちが追いついているのか……?
保の笑顔はいつも無邪気で、彼のまなざしは真っ直ぐすぎるから、こわくなる。
好きだと伝えてしまえば、オレは思いを抑えきれなくて……、あいつを傷つけてしまうことになるんじゃないか――。
その夜、保から返してもらった小説を本棚に戻そうとしたとき、紙袋の隅に、遠慮がちに小さな青い袋が入っているのに気が付いた。
「……?」
開けてみると、そこには小さなウサギのマスコットが入っていた。
……これ……、保の鞄についているのと同じウサギ?
小さな袋の中にはメモも同封されていた。
〈小説のお礼です。 保〉
「保……」
なんてかわいいことをするんだろう……。
作りたてのウサギは保の鞄のものより、色が鮮やかで、でも確かに彼のものと同じウサギで。
ペアだな、なんて思い、柄にもなく照れてしまう。
もうダメだ、と思った。もうこれ以上、好きだという気持ちを抑えていることはできない。
今度二人きりになったとき、自分の正直な気持ちを彼に伝えよう。
保を欲しいと願う雄が自分の中にいることも含めて……。
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