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第20話 思い出のK高校

 橘が自分の思いを伝える機会は、三日後にやって来た。    その日、新しい学年になって初めて、K高校との合同練習が行われることになった。  合同練習は、グランドの広いK高で行われる。  K高校へ向かう電車の中で、保は同級生と雑談に興じながらも、どこか上の空なのが、少し離れたところにいる橘には分かった。  ……去年の夏……K高校で……先輩の走っている姿を見て……ずっと憧れてました……  勿論そのとき、橘のほうは保の存在をまったく知らなかった。  でも、保の気持ちの軌跡を思うと、K高は橘にとっても特別な場所になりそうだ。  K高校の陸上部員とともに一通りの練習をこなし、お互いの新入部員を紹介し合いつつ談笑していると、突然大きな声が降ってきた。 「あれ? 保くんじゃないか?」  声の主はK高の教師らしいが、なぜか保に馴れ馴れしく話しかける。  橘はムッとした。 「保、知り合い?」  橘は隣にいる保に聞いた。 「はい。実は――」  しかし、保が説明する前に、男性教師が言葉をかっさらった。 「保、陸上部へ入ったんだ? びっくりだなー」  そして橘のほうを見て、親しげに笑う。 「やあ、橘くん、保と仲良くしてくれているようだね」 「……? どうして、オレの名前」  橘は形のいい眉をひそめた。 「君はうちの学校の女子にも超絶に人気があるからね。有名人だよ。な、保くん」 「ちょっと、(りょう)ちゃん……」  どういうわけか、保がその教師をいさめるように言う。  橘はおもしろくなかった。  良ちゃん? なんで、そんなふうに呼ぶんだよ!?  橘がムカムカしていると、教師は胸を反らせて保へ言い放った。 「こら保、ここはオレの職場なんだから、ちゃんと浜下先生、って呼びなさい」  橘は切れ長の目を見開いて、保と教師を見た。  ……え? 浜下って……。

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