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第21話 告白への道

「じゃ、保の従兄なんですか?」 「そう。保くんの父方のね。だから本当は保くんにはうちの高校へ来て欲しかったし、現実的にも、三年生の夏頃までの成績だと朝ヶ丘高校は無理だったしねー。ほらそっちのほうがレベル高いから。でも、こーんな女の子みたいな見た目してるけど、けっこう頑固で、思い込んだら一直線ってところがあって」 「分かります」  橘が同意してうなずくと、保は赤面してうつむいてしまった。 「文字通り猛勉強して、滑り止めも受けず、見事に朝ヶ丘に合格しちゃったんだから。なにが保くんをあそこまでがんばらせたのか、どうなんだ? 保くん」 「もー、うるさいよ。陸上部の顧問でもないくせに。あっち行ってよ、良……浜下先生」  拗ねたような言い方がかわいくて、橘はつい吹き出してしまった。  合同練習のメニューがすべて終わったとき、辺りはもう暗くなり始めていた。  この日は朝ヶ丘高校へは戻らず、その場所で解散となる。  橘と保は同じ線の電車なので、二人で帰ることとなった。  肩が触れ合いそうな距離で並んで歩きながら、橘はとても緊張していた。  保へ思いを伝えようと決めていたからだ。  彼のほうもまた緊張しているのが、伝わってくる。  ……こんなふうに二人きりになるのは、保に告白されたあの日以来だもんな。 「あの、橘先輩」  不意に保が口を開いた。 「ん?」 「ウサギ……、つけてくれて、うれしいです」 「ああ……」  橘は自分のスポーツバッグへ視線を投じた。  そこには小さなウサギのマスコットが揺れている。隣を歩く保のスポーツバッグで揺れているウサギとお揃いのウサギ。 「オレのほうこそうれしかったよ。ちゃんと礼を言ってなかったな、ごめん。ありがとう」  もらった翌日は周りに部員たちがいたので、そっけなくしかお礼が言えなかったのだ。 「さすが元手芸部だけあって、器用だな、保」  ちょっぴりからかうような口調で言うと、保は真っ赤になって照れてしまった。  しばしの沈黙のあと、橘は言葉を紡いだ。 「この道を少し奥へ行くと、小さな公園があるんだ。少し寄り道していかないか?」 「……はい」  保は緊張に体をグッと強張らせながらも、小さくうなずいた。

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