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第27話 急接近な、夏の始まり

「なあ、保、最近学校で嫌なこととかないか?」 「は? 嫌なことってなんですか?」  橘の問いかけに、保はバンビのようにくりくりした瞳をきょとんとさせた。  部活の帰り、二人は駅への道を、仲良く肩を並べて歩いていた。 「だから、そのー、いじめられてるとか……」  橘は、昼休みに悪友たちが言っていたことが気になっていた。  でも、保は橘の心配を明るく笑い飛ばした。 「えー? なんで、急にそんなこと言うんですか? 全然ないですよー」 「本当に?」 「やだな、橘先輩、いったいどうしたんですか? 僕、いじめられてなんかいないし、もしいじめられても、負けません。ケンカは強いと思います、僕。……多分」  ケンカが強いかどうかはともかく、保の笑顔には屈託の影は見えず、橘は安堵した。  そして、心に誓う。  保の笑顔はオレが守る。絶対に……。  しばらくして、学校は夏休みに入った。  ゆるい部活にふさわしく、夏休みの練習は自由参加だ。  それでも橘と保はほとんど毎日、練習に参加している。……とは言っても、午後になると暑さが半端なくなるので、午前中だけではあったが。  そのあと二人でお昼を食べて、午後は遊びに行ったり、図書館で、山ほどの夏休みの宿題に取り組んだり、平和で楽しい日々を送っていた。  そんなある日のこと、橘と保の関係が数段、濃密になる機会が訪れる。

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