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第28話 甘いお誘い

 八月に入ったばかりの日曜日。  よく行くファストフード店で昼食をとりながら、橘は保へその誘いを切り出した。 「保、明後日、オレの家へ泊まりに来ないか?」 「えっ?」  保がポテトフライを持ったまま、きょとんとした顔をする。 「両親が二泊三日で旅行に出かけるから、家はオレ一人になるんだ。だから……」  できるだけさりげない声と口調を心がけながらも、橘は内心、口から心臓が飛び出そうな心地を味わっていた。 「えっ……?」  保は同じ言葉を繰り返し、手に持っていたポテトフライを落とした。 「親父が一足早くに盆休みをとってね。明後日の夜行バスで夫婦水入らずで白浜へ行くんだよ。午前中に来てくれたら、保のこと両親に紹介できるしさ」 「…………」  橘が言葉を重ねても、保は反応せず、落としたポテトフライもそのままに、フリーズしてしまっている。  橘はだんだん不安になってきた。 「保? その日、都合悪い?」  橘らしくなく少し臆するように聞くと、保はようやくハッと我に返り、 「大丈夫ですっ……」  上ずった声で誘いを受けてくれた。 「良かった……」  橘の体からも緊張が解け、デレデレしているんだろうなと、自分でも思うような微笑みを浮かべる。  保もまた口元をほころばせた。 「うれしい。橘先輩の家へ行けるなんて……。それも泊りで……」 「まだお互いの家へは行ったことないもんな」 「はい。……それに先輩の御両親にも会えるなんて。あ、すごくドキドキしてきました」  胸に手をやって頬をピンクに染める保を、眩しい思いで橘は見つめた。  保は今時の高校生の男子としては幼い。  二人の関係もキスを交わすことでとどまっている。ここ最近になって、ようやく大人のキスをも交わすようになったが、それでもどこかおずおずという感じだった。  だから橘は彼と夜を過ごしても、無理強いをするつもりはない。  欲情を抑えるのは辛いだろうが、保を傷つけたくはないから。  二人きりで二晩も一緒にいられる……。  そのことが橘を幸せでたまらない気持ちにさせていた。 「楽しみだな、明後日」  橘が言うと、保は花がほころぶような笑顔を見せて、うなずいてくれた。

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