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第36話 次の日
目を覚ましたとき、保の目の前には男性の綺麗な首筋があった。
……?……。
保の意識は眠りと覚醒のあいだを彷徨い、ぼんやりとしていた。……が、一瞬後、突然スイッチが入ったかのように、一気に記憶の糸が繋がる。
保はボッと音がしそうな勢いで、顔が赤くなるのを感じた。
そ、そうだ。僕、昨日、橘先輩と……。
橘の肩口に頭を乗せるようにして、保は眠っていたのだった。
頭を少しずらして、彼の顔を見上げてみる。
斜め下の角度から見ても、彼の顔はどこまでも端整だった。一見、冷たそうに見える綺麗な顔立ち。
……でも、本当はとてもやさしくて……。
昨日……しているときだって、なにもかも初めてで分からない僕を、本当にやさしく抱いてくれて……、大切に大切に思われていることが伝わってきた。
そう、僕はなんだか先輩の宝物のような気持ちになったんだ……。
つらつらと考えていると、昨日のことがありありと思い出されてきて、保は文字通り、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
……まさか自分があんなことして、あんなふうになっちゃうなんて……夢みたいだ。
そんなふうに思ったとき、保は、今こうして一つのベッドで橘先輩と一緒にいるっていうこと自体が夢なのでは……という不安に襲われた。
でもすぐにその不安は消え去ってくれた。
体の奥に残る鈍痛と、なにより、橘を受け入れたときの感覚が、保のソコにはありありと残っているからだ。
いろいろなことに思いを巡らしながら、保は愛しい人のことをジッと見つめていた。
保の視線を感じたのか、橘のまつ毛がかすかに揺れたかと思うと、スローモーションの画像を見るように、切れ長の目がゆっくりと開かれていく。
そして、涼しげな瞳が、保の瞳を捕らえた。
刹那の間のあと、彼の瞳がやさしく微笑んだ。
「……おはよ、保」
初めて知る、寝起きの彼の声は、とても色っぽかった。
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