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第39話 深まる関係
二日間の夜をきっかけに、保と橘は時々体を重ねるようになった。
逢瀬の場所は、橘の部屋。彼の母親が週三回、知り合いのパン屋でパートをしており、そのときは二人きりになれるからだ。
保の体は、橘に抱かれるたびに快感が増していき、自分でも恥ずかしくなるくらい、彼の愛撫や、一つになっているひとときに、感じてしまうようになった。
保は今まで、夏が苦手だったが、今年の夏は違った。
橘と二人で、プールや海へ出かけ、映画を観に行き、カラオケを楽しんだり、そしてときには体を重ねて……。
特別な夏休みは瞬く間に過ぎて行き、残り一日となった。
「明日で夏休みも終わりか……」
ファミリーレストランで昼食を食べつつ、橘が呟いた。
「そうですね。……宿題、昨日で全部終わって、良かった」
ハンバーグを飲み込んでから、保が応えると、彼はチキンカツをフォークで指し、形のいい唇へ近づけて行きながら、言った。
「最後の一日だから、うんと思い出になるところへ行きたいな」
「でも先輩、この夏休みは本当にいろんなところへ行きましたよ? 旅行こそしませんでしたけど……」
先輩の家には泊りに行ったし――という言葉を保は飲みこんだ。
あのときのことを思い出すと、初めての情交のことが、実感を伴って再生されてしまうからだ。
「冬休みにはどこか旅行へ行きたいな、保」
「橘先輩、まだ夏休み終わってないのに、冬休みの話なんて、気が早すぎますよ?」
「そうか? 冬休みはクリスマスもあるし、今から予約しておいても遅いくらいなんじゃないかな。……でも、まあそれより、明日どこ行こうか? 確かに一通り遊びに行ったな……」
橘が指を折って、遊びに行った場所を呟いているのを眺めつつ、
「……あの、先輩、僕、行ってみたいところがあるんですけど……」
なんとか勇気を出して、保はそう言った。
「え? どこ?」
「…………」
保は次の言葉がなかなか言い出せない。
「保? どこに行きたいの?」
アイスティーのストローをいじりながら黙っている保へ、橘が重ねて聞いてきた。
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