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第41話 ラブホテルへ行こう

 その夜、橘は、保とラブホテルへ行くことについて、考えを巡らせていた。  一つ問題があった。  橘は大人っぽい格好をすれば、大学生にも見えるが、保は無理だろうということだ。  幼顔だし、上背はそれなりにあるが華奢だし、中学生に見えるかもしれない。  下手をすれば、補導されてしまうおそれもある。  しばし橘は考え込んだが、保とラブホテル、という魅力には勝てず、 「ま、大丈夫だろ。そのときはダッシュで逃げれば。オレたち陸上部なんだし」  と、そういうことにしておく。  一応、保に、〈できるだけ大人っぽい服装を選んできて〉とメールを送っておいた。  さて次は、どこのラブホに行くかだな。  初心者でも入りやすくて、でも、あんまり普通すぎるところだと、ラブホの雰囲気を味わいたいという保の願いが叶わないし……。  かといって、マニアックすぎるところだと引かれてしまうし……。  あのラブホはケバくてダメ、あっちのラブホもちょっとなー……。あとは……。  少しのあいだの沈思黙考のあと、橘はスマートホンを取り出し、ラブホテルの検索を始めたのだった……。  目を光らせた補導員に、 「君、もしかして中学生じゃないの?」  ――と呼び止められることもなく、橘と保は、目的地のラブホテル『プリンセスの吐息』の前へ着くことができた。  保は真っ白なその建物を見上げて、圧倒されている。 「なんだかすごいですね……。外国の映画に出てくる洋館みたいで」  だが、ここはまだ大人しい外観のほうなのだ。斜め向かいのホテルは自由の女神が鎮座しているし、三つほど向こうにあるホテルは日本のお城を模している。 「じゃ行こうか」 「……はい」  橘が保の肩を抱くと、彼の体は明らかに緊張で強張っていた。  顔を覗き込んで、 「やめるか?」  と問いかけると、保は少しだけ怒ったような表情になり、かぶりを振った。 「入ります」  こう見えて彼はけっこう負けず嫌いだから、気持ちが臆していても、あとには引き下がれないのだろう。  そんな保を微笑ましく思いながら、橘は彼をリードしてラブホテルの中へと入った。

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