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第43話 悩める子ウサギ

 小指を絡め合ったまま、保がぽつんと呟いた。 「ねー、橘先輩」 「ん?」 「……僕、ちゃんと先輩を満足させていますか?」 「はあ?」  突然、思いもかけないことを言われて、橘は面食らってしまった。  うつむいている保の顔を覗き込んでみると、彼はまた少々憂い顔に戻っている。  どうやら今日の保は、悩める子羊ならぬ、悩める子ウサギというところだろうか。 「なに言ってるんだ? 保」  橘が苦笑すると、保は拗ねたような顔で言った。 「だって僕の体って、骨ばってて、女の人みたいな丸っこさや柔らかなラインなんかどこにもなくって。それは、僕は男だからしかたないんですけど。でも、僕は……、その、先輩に……だ、抱かれて、すごく、き、気持ちイイのに、先輩は僕を抱いてても、気持ちよくないんじゃな――」  最後まで言わせずに、橘は保の唇をキスでふさいだ。 「……んっ……」  強引に彼の唇を割って、舌を差し入れ絡ませる。  保の口内を存分に堪能してから、橘は彼の唇を解放してやり、潤んだ大きな瞳を見つめた。 「保、オレ前に言ったことあるよな? おまえを傷つけちゃいそうでこわいって……」  保が小さくうなずく。 「あの気持ち、今もまったく変わらないよ。オレ、おまえを抱いてるとき、理性なんかどっかへ行っちゃってるから、ひどく傷つけてしまいそうで……すごくこわい……。保が壊れてしまうまで、めちゃくちゃにしてしまいそうになる。……こんなオレ、嫌か?」  保は大きくかぶりを振って、懸命な瞳で言い募ってきた。 「いやなんかじゃない……。僕、先輩が好きだから……、先輩にならめちゃくちゃにされたっていい――」  保がハッと我に返り、みるみる真っ赤になった。  自分が口にした言葉のきわどさに、今更ながら気づいたようだ。  橘は保のクセのない前髪をかき上げて、綺麗な額にキスをした。 「ありがとう、保。オレもおまえだけが好きだし、おまえだけを抱きしめたいんだよ……」  今度こそ保は眩しいほどの笑顔を見せてくれた……幼さと色香、相反する二つのものを秘めた笑顔を。  橘もまた愛おしさと凶暴な雄、二つの思いが交差し込み上げてきて、保を広いベッドへ押し倒した。    

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