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第3話
「あの二人、大学の頃にも同じ大会に出てたらしくて、何か昔から顔見知りらしいよ?」
「え、何それ美味しい!」
「でしょ!?イヤ、学生時代は名前知ってる程度だったらしいんだけどね?」
「え?森田と大竹って同い年?」
「いや、森田の方が二つ下だって」
「マジで!?それ美味しい!」
「でしょ!?」
勝手に盛り上がっている女子に、男子は「え?それのどこが美味しいの……?」「それでどこをどうやったら森田が俺様鬼畜攻めで大竹がいじめられるの?」「ちょっと待てよ、森田と大竹が絡むの?うわ、マジ吐きそうなんですけど……」と皆かなりドン引きだ。設楽など最悪な顔つきになっている。
「やっぱ希望としてはシャワールームで!?」
「『森田、誰か来たら……!』的な!?『だったらあんたが声を殺していれば良いんだよ』的な!?」
「きゃ~!そこで死ぬほど苛めてもらわないと!大竹なんか泣いて攻められれば良いんだよ!!」
「いや、森田はやめろよ!ちょっとマジでキショいんだけど!」
童顔でいつもニコニコと笑っているが、顔に似合わずガチムチな森田と、背が異様に高くて三白眼の大竹が絡んでいる様子を想像したのか、男子が真っ青になって叫び出す。
「え~?男子は黙っててよ~!」
「ちょっと!あっち行っててよ!!」
オタ話で盛り上がる女子は、だが男子の意を全く受け入れず、手で男子を追い払った。
「でも私も森田はビジュアル的に受け付けないわ~」
「あ、じゃあさ、三年の松川先輩は?」
杏が楽しそうに名前を挙げると、みんな一様に「なんで松川先輩?」と小首を傾げた。
松川はケンカっ早いので有名で、藤光の生徒にしてはずいぶんとんがっている。だが、百七十八cmのスレンダーなボディの上に乗っかった顔は、結構良いのだ。「お近づきになるのは怖いけど、眺めるだけなら!」という隠れファンだって何人もいる。確かに俺様鬼畜攻めには合ってるかもしれないが、しかし大竹とは授業を受け持たれてるくらいで、他に接点は無かった筈だ。
「違うって!すごい接点があるんだって!」
そう言った途端に、設楽がぎっとこっちを見た。その目が怖くて、茉莉香は「ね、そろそろ止めようよ……」と声を掛けるのだが、走り出した列車はそう簡単には止まらない。
「あのね、松川先輩って、入学したての頃吉田先輩とケンカして、それが大竹に見つかって、二人して一ヶ月間毎日科学準備室に通って罰プリントさせられてたんだって!なんか、未だに数学や物理まで大竹に教わりに行くし、進路のことからプライベートなことまで、色んな相談も大竹にしてるんだって!」
「え?そうなの?」
「そうなんだって!そのせいで、今じゃすっかり丸くなったんだって!」
「丸く!?アレで丸く!?」
「いや、だって松川先輩、今ケンカもあんまりしないし成績も上の方じゃん?」
「じゃ、じゃあそのケンカに使ってた漲るパワーを大竹で発散させてるってこと!?」
「あ!良いね、それ!『あんたがケンカするなって言うんだから、替わりに責任とって俺を満足させろよ』的な!?」
「イヤ~!松川先輩ならすごい大竹を苛めてくれそうな気がする!!」
「すごい理想的な鬼畜攻め様じゃん!!」
「……いやあの、でもさすがに大竹の方が背も高いし、それはないんじゃ……」
茉莉香が控えめに提案してもみんな全く聞いちゃくれない。
ひ~~!設楽くんメチャクチャ怒ってる……!何でみんな気づかないの……!?
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