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俺に夢中になってくれませんか。
焦りたくない。
いや、焦らせたくない。
一緒にいられる、それだけでも幸せだ。
そう思うのに、俺が我慢してるのを知らないこの人は風呂上がりに上半身裸で部屋をウロウロしたりしてくれる。
「早く上着てください。風邪引きますよ」
「だってまだ暑いもん」
「襲いますよ」
俺の言葉に遥さんの大きな目がさらに見開かれた。
「え、お前、襲いたいの?」
がっくりと肩を落とす。
なんだろう、この疎さは。
これまで付き合ったことがない訳ではないだろうに。
俺のこの灼けるほどの思いは少しも伝わってない気がしてきた。
「俺も風呂行ってきます…」
項垂れたまま立ち上がりかけた俺のネクタイが急に引っ張られ、ぶつかるように遥さんの胸に顔を埋めた。
驚いて顔を上げた俺の顔に影ができる。
ちゅと音を立て遥さんの唇が離れるまで呼吸も動きも止まっていた。
「全然触ってこねーから性欲ねーのかと思った」
「そんな訳ないでしょ!」
「そうなの?最近の若いヤツは草食なんだろ?」
「俺は草食じゃなくて肉食です!」
「へぇ?」
自分だって若いヤツのくせに。
軽く睨んでやりながらまだうるさい心臓あたりをぎゅっと握ると遥さんが俺の髪を乱雑に撫でた。
「俺も割と肉食よ?」
ニヤリと笑いながら言われ一気に身体が熱を持った。
これはもう明らかに誘われてる。
漸く進めるのか。
駆け込むように風呂に入り、期待に膨らむ下半身をなだめつつ風呂を出ると部屋の灯りは落とされていた。
まさかと思いつつ寝室を覗くと可愛い寝息を立てながら眠る可愛い人。
膝の力が抜けてベッドの脇に座り込んだ。
まだ少し濡れている髪に触れる。
硬い俺のとはまるで違う柔らかい髪が俺と同じ匂いをさせている。
「好きです、遥さん」
きっと俺はこれから先この人にしか好きだと言わない。
それなら一生分をこの人に伝えていく。
俺もだよ、とこの人が自然に返してくれるようになっても。
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