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俺のだって言っていいですか。

誠一さんが立ち上がりドアに向かう。 確認してから遥さんを振り返り頷くとドアを開けた。 「こんにちは!ああ、遥くん!」 誠一さんを素通りした橘さんは一直線に遥さんの元にやって来ると遥さんの手を握りしめた。 「今日こそ夕飯を一緒にどうかな?一度夕飯に一緒に行ってくれたらしつこく付きまとったりしないから」 嘘だ。 明らかな嘘に事務所中に白けた空気が流れる。 「橘社長、何度かお話ししていますが、お客様と個人的なお付き合いをすることは禁止にしております。何卒…」 誠一さんが口を挟み助け舟を出すが、橘さんは気にも留めない。 「橘社長、あの、先日お伝えした通り、お付き合いしている人がいますので、会社の決まりだけでなく、個人的なお付き合いは出来ません」 ちらっと俺の方を見てから遥さんが一気に言った。 「またーぁ、そんなの嘘でしょ?一度付き合ってくれたら諦めるって、ね?」 橘さんが遥さんの肩を抱いたのを見た瞬間身体が動いていた。 橘さんから奪うように遥さんを引っ張り自分の身体の後ろに隠す。 「この人は俺のです、気安く触らないでください!」 あっと思ったがもう全て言って終えた後だった。 ぎくしゃくと誠一さんを振り向くと誠一さんはうんと大きく頷いてから笑ってくれた。 「俺のですって、そうきた?遥くんノーマルでしょ?だからこそ落とそうと思ってるのに」 ニヤリと笑った橘さんはまるで信じてないようだ。 俺の後ろにいた遥さんが俺の腕を掴み前に出ると誠一さんを振り返った。 「信じてもらえることをしてもいいですか?」 「おう、派手なのかましてやれ」 誠一さんと遥さんは顔を見合わせて笑う。 遥さんが俺のネクタイをぐっと下に引いた。 前につんのめった俺の首の後ろに遥さんの手が回る。 え?と思った時には遥さんの唇が俺の唇に重なっていた。 食むようなキスの後唇を舐められ舌で唇をこじ開けられそのまま舌が入れられる。 そこからはもう夢中になった。 腰を引き寄せ頬に手をやり、舌を入れ返す。 いつになく積極的な舌を吸い上顎をなぞると甘えるような吐息が遥さんの鼻から抜けた。 ごすっと腹に遥さんのパンチがめり込むまでここが会社だということを忘れていた。 頭のてっぺんには誠一さんのげんこつが落とされ、 膝裏には響子さんの蹴りが入れられた。 橘さんは呆然と口を半開きにしたまま言葉もなく突っ立っていたが、俺の睨むような視線に漸く動いた。 「この人は俺だけのものです。絶対渡しません!遥さんもあなたになんかなびきません!」 「…はい、なびきません」 俺の後に遥さんが続けて言った。 「橘社長、これ以上うちの社員にちょっかいを出すならお取り引きは残念ですが取りやめさせていただきます。 それはしたくありませんので、潔く身を引いていただけませんか」 誠一さんの言葉に橘さんはがっくりと肩を落として項垂れた。

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