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俺は嫉妬深いですか。
きっとあの子も本気だ。
遥さんが店に来た時は声を掛け、少しずつ接点を見つけ増やし、僅かなチャンスを見逃すまいと頑張っている。
同じ人を好きになったからか、彼女の気持ちが痛いほどにわかる。
俺がそうだった。
会話の糸口を毎日探し、話し掛け、声が聞けたことに喜ぶ。
もっと知りたいと望み、引かれないギリギリのラインを読みながら少しずつ好きな物や嫌いな物を探り尋ねた。
気が付けばもう溢れそうなほどに想いは確かな物になっていて、それでも一緒に働ける環境を手放したくなくて我慢に我慢を重ねた。
見るからにノーマルなこの人に玉砕したら。
考えるのさえ怖かった。
今一緒にいて、触れられる距離にいられる。
それでも俺の欲は収まらない。
誰にも見せたくないと思うのに、見せびらかしたくもある。
自分で自分を持て余す、そんな恋愛はしたことがなかった。
遥さんを前にすると、何も知らない子供のような、でも欲だけは溢れるほどにある、そんな自分に驚く。
自動ドアが開いて出てきた遥さんの手には紙袋。
俺を見ておはようと言い、嬉しそうに笑った。
「新しいコーヒー出たから買ってきた。飲むだろ?」
紙袋を開いて見せながらまた笑う。
キスがしたい。
抱き締めて髪の中に顔を埋めたい。
邪な思いを封じて笑みを返すと遥さんが俺の腕を引き、そのままエレベーターのボタンを押した。
「遥さん?」
エレベーターに乗り込むと事務所の階数を押し、ボタンを押した手を俺に伸ばした。
「一瞬だけ、だからな」
チン、と音を立てて五階についたエレベーターから降りる寸前、伸ばされた手がネクタイを引く。
一瞬だけ重なった唇は唇の横に音を立てるキスをして離れていった。
「は、遥さん」
「したかったんだろ?」
耳が赤い。
気付かない振りをしてはい、と返事をするとわかりやすいなと額を叩かれた。
好きだ。
毎日何度も思う。
「遥さん、好きです」
ドアのロックを解除する背中に伝えると、さっきよりも耳を赤くした遥さんが振り返りざまに俺の頭を叩いた。
「朝っぱらから何言ってんだ」
「一日中言えますよ。むしろ一日中言いたいです」
「い、言わなくていい」
「なんでですか」
遥さんがまた手を伸ばし、向き合っていた俺の顔をぐいと横に向けた。
予想していなかった勢いに首の筋がゴキと鳴った。
「心臓が持たない」
呟くように発せられた言葉に顔全体が緩むのがわかった。
きっと耳だけじゃなく頬まで染まっているんだろうなと思うと顔が見たくて仕方がない。
そこをぐっと堪えて事務所のドアを二人で潜った。
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