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俺は嫉妬深いですか。
連休前の今夜、例によって飲み会だった。
誠一さんの酒好きには多少呆れる。
気心の知れた仲間達と飲むのは楽しいが、
ハメを外しすぎて真由ちゃんに罵倒されながらもタクシーに押し込まれる誠一さんを見て小さくため息を吐いた。
誠一さんを連れて真由ちゃんも乗り、去ったタクシーを見送ると響子さんと泰生さんも連休楽しんでとか遥くん頼むよと俺に声を掛けて帰って行った。
さて。
振り返ると居酒屋の入り口に置いてある木製の椅子に凭れて船を漕いでいる恋人。
遥さんはさほど強くもないのに、ついつい雰囲気に合わせて許容量を超えて飲んでしまう時がある。
今日がそうだ。
悪酔いはしないし、楽しそうだし、何よりとてつもなく可愛くて、甘えんぼになり、色気も倍増。
いい事づくめだが、俺には試練の時でもある。
「あれぇー、綺麗なお兄ちゃんが寝てるー」
やたらにでかい声で酔っ払ったサラリーマン数人が歩いてくると、船を漕いでいる遥さんを見てさらに声を大きくして言った。
その大きすぎる声に閉じていた遥さんの目がゆっくりと開いた。
その様子に三人の酔っ払いの動きが止まった。
「あれ、誰?あ、こんばんはー」
にこっと笑った遥さんを見て酔っ払い三人がかわいーと声を揃えた。
「ねぇ、飲みに行かない?奢るからさー」
誘われた遥さんは首をゆっくりと振る。
「ヤキモチ焼きの恋人がいるから行かない」
舌たらずな口調、とろんと濡れた目、緩められたネクタイと外されたボタンのせいで覗く鎖骨、溢れまくってる色気。
思わず顔を手で覆った。
目の毒とはまさにこれだ。
「あ、いたー」
遥さんが酔っ払い三人の隙間から俺を見つけ弾けるような笑顔を見せた。
よたよたと立ち上がり三人を押しのけるようにしながら俺の目の前に立つと首に腕を回ししなだれかかる。
「一人にすんなよ、ナンパされちゃったじゃん。お持ち帰りされてもいーの?」
「そんな事は絶対させません」
「ははっ、さすがダーリン」
俺の首筋に顔やら頭やらをすりすりと擦りつけて甘える様子に酔っ払い三人が釘付けになっている。
「なぁ、帰ろ?帰っていっぱいちゅーしたい」
「ちょ、っと、遥さん」
「ダメ?酒臭いから?歯磨きするからーちゅーしよ?ちゅーして?」
酔っ払い三人の顔がさらに真っ赤になった。
一人は股間を押さえている。
これはヤバイ。
俺もヤバイが、俺の股間もヤバイ。
酔っ払い三人もヤバイ。
このままではここが地獄絵図のようになってしまう。
「タクシー捕まえましょう」
肩を抱いてそう言うと遥さんは俺の腰に腕を回し抱きつきながらへたり込んでいる酔っ払い三人に笑顔を向けた。
「お兄さん達、バイバーイ」
歩き出した俺達の背中に小さくバイバーイと返事が返された。
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