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俺と離れても平気ですか。
「里香と俺は、婚約してたんだ。
お互いの両親にも挨拶をして、指輪も贈ってた。お互いの仕事が落ち着いたら式を上げようって、それで結婚して住む部屋に一緒に暮らしてたんだ。
俺は婚約解消を里香の両親に伝えた。
理由を聞きたがる両親に何も言わなかった。
でも数日後あちらの両親から正式な婚約解消の申し出がきた。
俺が自分の出世のために上司と寝ろと里香を脅したと両親に話したって兄ちゃんが連絡をくれた。
婚約破棄の慰謝料請求をされそうになったけど、それは里香が止めたらしい」
侑司が立ち上がり冷蔵庫から出した新しいビールを俺に渡す。
ビールを渡すと、侑司はさっきまでの向かい合わせではなく、いつものように俺の隣に座り肩を擦り合わせるかのようにくっつけた。
「とりあえず兄ちゃんの部屋に居候させてもらうことになって、会社には退職届を出した。
会社で2人のことが内々に色々出回ってたらしくて、居心地と立場の悪くなった上司が退職届を握りつぶして無断欠勤で会社に呼び出し喰らうってことが続いた。
何はともあれ働かないとって登録しに行ったのが今の会社だよ。
初見してくれたのが響子さん」
思い出して苦笑いした。
「とりあえず登録して、さて面接にって日に、狙ったようにあの上司から連絡がくるんだよ。
怪しんだ響子さんに話しなさい!って詰め寄られて全部話したらもうそっからは嵐みたいな流れでさ。
弁護士同士の戦いになって、その間に響子さんやら誠一さんやら会社のみんなが力になってくれて、おまけに就職までさせてくれた。
俺が営業じゃなくて内勤なのも響子姉さんの鶴の一声のおかげ。もう平気だって言っても取り合ってくれない。
姉さんには一生頭上がんないよ」
俺の話を聞いて化粧が取れるのも気にせず怒りながら号泣してくれた響子さん。
その響子さんを見て、笑い、笑っているうちに俺も漸く泣けた。
「それから俺恋愛ってものをしてないの。
好きって言われても言われた途端、なんだろ、どうせ嘘だろとか、ものすごく冷めるんだよ。
兄ちゃんが過保護ぎみなのも里香の件があるから。両親はあっちの両親の言うこと信じちゃって絶縁状態。兄ちゃんは違うけどな」
侑司の手が肩を抱く。
その手は暖かく少し震えていた。
「お前が入ってきて、段々と俺を好きって目で見てきてるのに気付いて、
同性だし、告白とかしてきてもこれまでのように一瞬で冷める自分がいるんだろうなって思ってた」
でも、冷めなかった。
驚くほど、侑司の好きです、が染みてきた。
たぶん、俺も好きだったんだろうな。
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