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俺はそのうち焼かれますか。
給料日から5日たった金曜日の夜。
俺らの会社からほど近い居酒屋の個室で俺は緊張しながらビールの入ったジョッキを眺めていた。
月に一度、遥さんのお兄さん、遥さん、俺の三人で食事をしようと約束をし、その初回。
お兄さんの隣にどうぞと言ったのに、遥さんは何でだよ、と俺の後頭部をスパーンと叩いて、俺を押し込み隣に腰を降ろした。
向かいに座るのがお兄さんだけだと緊張が増す。その隣に遥さんがいればこの緊張も少しは和らぐのではないかとの俺の目論見はすぐ様却下されてしまったので、お兄さんにしげしげと見つめられ緊張は鰻登りだ。
その視線から不自然なく視線を反らせるため、汗をかいたビールのジョッキを熱く見つめた。
それぞれが頼んだ飲み物が届き、遥さんがビールのジョッキを持ち上げる。
「カンパーイ」
「…乾杯」
楽しそうな遥さんに続き、お兄さんと俺もオウム返す。
「ところで君たちはもうヤッたのかな」
ぶーっと遥さんがビールを噴き出した。
噴き出した後ゲホゲホとむせている。
遥さんにおしぼりを手渡し、背中を擦りながらお兄さんを見ると居心地が悪そうな顔でウーロンハイを煽った。
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「単なる興味だ」
「興味って、興味持たなくていいから!」
「兄ちゃんは!兄ちゃんは……心配なんだよ…」
最後は聞き取れないくらい小さくなった声。
俯いた小さな頭を撫でたくなるほどお兄さんは身体まで縮こませている。
こないだ聞いた里香さんの件が関係しているのだろうか。
里香さんと別れてから漸く付き合ったと思ったら同性だ、お兄さんじゃなくても心配だろう。
「大丈夫だよ、仲良くやってるから」
「ヤッてる!?ヤッてるのか、やっぱり!」
「違う!そういう意味じゃない!」
………頭が痛くなってきた。
そうだ、酒を飲もう。
多少でも酔いが回れば緊張もマシになるだろ。
そう思う俺を置き去りにして、水元兄弟がガンガン酒を煽り、30分後にはとろんと目を蕩けさせた美人兄弟が出来上がった……
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