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俺はそのうち焼かれますか。
「お兄さんも弱いんですね……」
店員さんに頼んだ水を2人に飲ませながら呟くと、お兄さんがキッと俺を睨んだ。
「俺は君のお兄さんじゃないぞ!薫さんって呼びなさい」
「薫さん」
そう言えば初めて名前を聞いたな。
教えられた名前を確認するように復唱すると睨んだことで釣り上がっていた眉毛がきゅーんと下がった。
「よしよし、いい子いい子」
腰を浮かし手を伸ばして俺の頭を撫で撫でしながら笑った。
釣られて笑った俺のスーツの袖口がくいっと引っ張られ遥さんを見ると、口を尖らせわかりやすく拗ねている。
「お前俺のなのに、なんで触らせてんの?」
「あ、えと、すいません」
ちらっとお兄さんを見るとまだニコニコしながらよしよしと頭を撫でる手も止まらない。
手を止めることも出来ずにいると、遥さんが立ち上がってお兄さんの手首を掴んで撫でるのを止めた。
「あんまり触んないで、俺のだから」
「ちゃんとヤキモチも焼けるようになったんだなぁ」
お兄さんが今度は遥さんの頭をよしよしと撫で始める。
頭を撫でられながら遥さんもニコニコと笑い、ニコニコと笑い合う可愛らしい兄弟を見ながら俺は軟骨の唐揚げをごりがりと噛みビールを飲んだ。
この兄弟は酒のツマミになる。
「遥、侑司くんが好きか?」
「ん、好きだよ。毎日好きが増えてってる」
「んぶっ」
突然の爆弾発言に噛んでいた軟骨が口から弾け飛びテーブルを転がった。
「そうかぁ、良かったなぁ」
「うん」
「どういうとこが好きなんだ?」
「全部だけど、」
言いかけた遥さんがふと立ち上がって薫さんの耳に顔を寄せこしょこしょと囁いた。
話しが終わると2人で顔を見合わせてふふっと笑い合った。
「何て言ったんですか」
「内緒」
気にはなったが、2人のかわいい笑みに深くは突っ込まなかった。
初めての食事会はいい感じに酔っぱらった兄弟の子供の頃の話しを聞き笑いながらお開きになった。
タクシーに乗せ先に薫さんを帰らせ、俺達もタクシーに乗り込む。
ほろ酔いの身体にタクシーの揺れがゆっくりと眠りを誘っている。
静かな遥さんもそうなのかとちらっと盗み見てみると、唇が尖っていた。
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