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俺の思いは急ぎすぎですか。
仕事を終えて部屋に帰ってきてネクタイを緩める。
今日はお兄さんと夕飯を食べると告げ、遥さんは定時でいそいそと帰って行った。
一緒に暮らしませんかと言ってから半年、まだ返事は貰えてない。
まだ早かったか。
それとも同棲そのものがトラウマになっているのか。
遥さんに伝えてから遥さんと過ごす時間が少し減っている。
休みの薫さんと出掛けることが増え、避けられているのかとも思ったが、遥さんの態度に変化はない。むしろさらに甘え上手になっている遥さんに煽られまくっている。
ここ最近俺の部屋で食事をするのは遥さんと二人でしていたせいか一人ではたいして腹も減らず冷蔵庫に入っていたチューハイを開けた。
ベランダに続く窓を開けると強くも弱くもない風が入り、しばし風を受けながら微睡む。
遥さんは薫さんともう飯を食べただろうか。
一緒に住む事を相談しているんだろうか。
無駄に悩ませてしまってはいないか。
グラデーションになった空を見ながら遥さんを思い出す。
接客用の笑顔、大笑いした時の眉を下げた笑顔、拗ねた顔、照れた顔、甘える顔、
俺を見る時にたまに見せる愛しそうで困った顔、子供のようなあどけない寝顔、抱く時の泣きそうで色っぽく歪む顔。
順番に思い浮かべ笑みがこぼれた。
ほんの一瞬でもあの人の表情を見逃すことはしたくない。
………焦りすぎたか。
どれだけ余裕がないんだ、と思ったら自分に呆れ乾いた笑いが漏れた。
遥さん、好きなんです。
諦めるなんて選択肢は俺にはないんです。
空になったチューハイの缶をベコっと潰して空を見るとグラデーションは消えていた。
暗い空に溶け込むような朧月を見上げながら俺は長い間そこに座っていた。
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