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俺は何度惚れればいいですか。

「採用担当の方から出勤を9時にできないかとの打診があったのですが」 俺の言葉に森田さん34歳狸顔は首を捻る。 「9時ですかぁ……」 腕を組み考え込む森田さん34歳狸顔を見てから隣の遥さんに目をやると。 先日文具メーカーの人事部長さんからもらったいつも先が尖っているシャーペンでゆっくりと俺の名前をひたすら紙に書いている。 ゆっくりと先が回り、常に潰れてない芯にしてくれるそのシャーペンが今遥さんの一番のお気に入りだ。 俺にしか聞こえない小さな声で、おぉと感激し、ニコニコしている。 それだけでも可愛いのに、何故俺の名前を書くのか。 瀧田侑司、たきたゆうじ、タキタユウジ。 永遠と俺の名前をひたすら書きながらニコニコする様子に悶えない人間がいるのか。 「瀧田さん、やっぱり9時出勤は無理です」 森田さん34歳狸顔の言葉にハッと我に返った。 「そうですか…」 「9時半ならどうですか?」 遥さんが口を開く。 「森田さんの経歴を見てあちらはぜひにとのことでしたし、それくらいの譲歩は飲んでくれると思いますが」 「9時半なら、なんとか。あ、でも」 「もちろん退社時刻は変更ないように話します」 森田さん34歳狸顔の顔が綻んだ。 ドアの前で挨拶を交わしお見送り。 当たり前だが、遥さんは仕事も卒なくこなす。 プライベートを知らないまま好きになった俺は今二度目の一目惚れをしているのかもしれない。

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